桜の森の満開の下(2/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(655字。目安の読了時間:2分)
なぜなら人間の足の早さは各人各様で、一人が遅れますから、オイ待ってくれ、後から必死に叫んでも、みんな気違いで、友達をすてて走ります。
それで鈴鹿峠の桜の森の花の下を通過したとたんに今迄仲のよかった旅人が仲が悪くなり、相手の友情を信用しなくなります。
そんなことから旅人も自然に桜の森の下を通らないで、わざわざ遠まわりの別の山道を歩くようになり、やがて桜の森は街道を外れて人の子一人通らない山の静寂へとり残されてしまいました。
そうなって何年かあとに、この山に一人の山賊が住みはじめましたが、この山賊はずいぶんむごたらしい男で、街道へでて情容赦なく着物をはぎ人の命も断ちましたが、こんな男でも桜の森の花の下へくるとやっぱり怖しくなって気が変になりました。
そこで山賊はそれ以来花がきらいで、花というものは怖しいものだな、なんだか厭なものだ、そういう風に腹の中では呟いていました。
花の下では風がないのにゴウゴウ風が鳴っているような気がしました。
そのくせ風がちっともなく、一つも物音がありません。
自分の姿と跫音ばかりで、それがひっそり冷めたいそして動かない風の中につつまれていました。
花びらがぽそぽそ散るように魂が散っていのちがだんだん衰えて行くように思われます。
それで目をつぶって何か叫んで逃げたくなりますが、目をつぶると桜の木にぶつかるので目をつぶるわけにも行きませんから、一そう気違いになるのでした。
けれども山賊は落付いた男で、後悔ということを知らない男ですから、これはおかしいと考えたのです。
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