犬を連れた奥さん(26/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(716字。目安の読了時間:2分)
娘も一緒に連れだっていたが、それはちょうど途中にある学校まで送ってやろうと思ったのだった。
大きなぼたん雪がさかんに降っていた。
「今朝の温度は三度なんだが、でもやっぱり雪が降るねえ」とグーロフは娘に話すのだった。
「でもね、この温かさは地面の表面だけのことで、空気の上の層じゃまるっきり気温が違うんだよ」
「じゃあねパパ、なぜ冬は雷が鳴らないの?」
それも説明してやった。
彼は話しながら、こんなことを考えていた――今こうして自分は逢引に行くところだが、人っ子一人それを知った者はないし、たぶんいつまでたっても知れっこはあるまい。
彼には生活が二つあった。
一つは公然の、いやしくもそれを見たい知りたいと思う人には見せも知らせもしてある生活で、条件つきの真実と条件つきの虚偽でいっぱいな、つまり彼の知合いや友達の生活とまったく似たり寄ったりの代物だが、もう一つはすなわち内密に営まれる生活である。
しかも一種奇妙な廻り合せ、恐らくは偶然の廻り合せによって、彼にとって大切で興味があってぜひとも必要なもの、彼があくまで誠実で自己をあざむかずにいられるもの、いわば彼の生活の核心をなしているものは、残らず人目を避けて行なわれる一方、彼が上辺を偽る方便、真実を隠そうがために引っかぶる仮面――例えば彼の銀行勤めだの、クラブの論争だの、例の『低級な人種』という警句だの、細君同伴の祝宴めぐりだのといったものは、残らずみんな公然なのだった。
で彼は己れを以て他人を測って、目に見えるものは信用せず、人には誰にも、あたかも夜のとばりに蔽われるように秘密のとばりに蔽われて、その人の本当の、最も興味ある生活が営まれているのだと常々考えていた。
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