老妓抄(13/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
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そしてそれだけで自分の慰楽は充分満足だった。
柚木は二三度職業仲間に誘われて、女道楽をしたこともあるが、売もの、買いもの以上に求める気は起らず、それより、早く気儘の出来る自分の家へ帰って、のびのびと自分の好みの床に寝たい気がしきりに起った。
彼は遊びに行っても外泊は一度もしなかった。
彼は寝具だけは身分不相応のものを作っていて、羽根蒲団など、自分で鳥屋から羽根を買って来て器用に拵えていた。
いくら探してみてもこれ以上の慾が自分に起りそうもない、妙に中和されてしまった自分を発見して柚木は心寒くなった。
これは、自分等の年頃の青年にしては変態になったのではないかしらんとも考えた。
それに引きかえ、あの老妓は何という女だろう。
憂鬱な顔をしながら、根に判らない逞ましいものがあって、稽古ごと一つだって、次から次へと、未知のものを貪り食って行こうとしている。
常に満足と不満が交る交る彼女を押し進めている。
小そのがまた見廻りに来たときに、柚木はこんなことから訊く話を持ち出した。
「フランスレビュウの大立者の女優で、ミスタンゲットというのがあるがね」
「ああそんなら知ってるよ。レコードで……あの節廻しはたいしたもんだね」
「あのお婆さんは体中の皺を足の裏へ、括って溜めているという評判だが、あんたなんかまだその必要はなさそうだなあ」
老妓の眼はぎろりと光ったが、すぐ微笑して
「あたしかい、さあ、もうだいぶ年越の豆の数も殖えたから、前のようには行くまいが、まあ試しに」といって、老妓は左の腕の袖口を捲って柚木の前に突き出した。
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