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武蔵野(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(611字。目安の読了時間:2分)

萱原の一端がしだいに高まって、そのはてが天ぎわをかぎっていて、そこへ爪先あがりに登ってみると、林の絶え間を国境に連なる秩父の諸嶺が黒く横たわッていて、あたかも地平線上を走ってはまた地平線下に没しているようにもみえる。

さてこれよりまた畑のほうへ下るべきか。

あるいは畑のかなたの萱原に身を横たえ、強く吹く北風を、積み重ねた枯草で避けながら、南の空をめぐる日の微温き光に顔をさらして畑の横の林が風にざわつき煌き輝くのを眺むべきか。

あるいはまたただちにかの林へとゆく路をすすむべきか。

自分はかくためらったことがしばしばある。

自分は困ったか否、けっして困らない。

自分は武蔵野を縦横に通じている路は、どれを撰んでいっても自分を失望ささないことを久しく経験して知っているから。

     五

 自分の朋友がかつてその郷里から寄せた手紙の中に「この間も一人夕方に萱原を歩みて考え申候、この野の中に縦横に通ぜる十数の径の上を何百年の昔よりこのかた朝の露さやけしといいては出で夕の雲花やかなりといいてはあこがれ何百人のあわれ知る人や逍遥しつらん相悪む人は相避けて異なる道をへだたりていき相愛する人は相合して同じ道を手に手とりつつかえりつらん」との一節があった。

野原の径を歩みてはかかるいみじき想いも起こるならんが、武蔵野の路はこれとは異り、相逢わんとて往くとても逢いそこね、相避けんとて歩むも林の回り角で突然出逢うことがあろう。

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