武蔵野(22/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(564字。目安の読了時間:2分)
自分たちはある橋の上に立って、流れの上と流れのすそと見比べていた。
光線の具合で流れの趣が絶えず変化している。
水上が突然薄暗くなるかとみると、雲の影が流れとともに、瞬く間に走ってきて自分たちの上まで来て、ふと止まって、きゅうに横にそれてしまうことがある。
しばらくすると水上がまばゆく煌いてきて、両側の林、堤上の桜、あたかも雨後の春草のように鮮かに緑の光を放ってくる。
橋の下では何ともいいようのない優しい水音がする。
これは水が両岸に激して発するのでもなく、また浅瀬のような音でもない。
たっぷりと水量があって、それで粘土質のほとんど壁を塗ったような深い溝を流れるので、水と水とがもつれてからまって、揉みあって、みずから音を発するのである。
何たる人なつかしい音だろう!
“――Let us match
This water's pleasant tune
With some old Border song, or catch,
That suits a summer's noon.”
の句も思いだされて、七十二歳の翁と少年とが、そこら桜の木蔭にでも坐っていないだろうかと見廻わしたくなる。
自分はこの流れの両側に散点する農家の者を幸福の人々と思った。
むろん、この堤の上を麦藁帽子とステッキ一本で散歩する自分たちをも。
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