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ジャン・クリストフ(23/31)

(496字。目安の読了時間:1分)

ほかの時だったら、いつもばかにしている小父からあべこべにばかにされるなんて、我慢が出来なかったかもしれない。
それにまた理窟で自分をやりこめるほどゴットフリートが利口だなどとは、思いもよらないことだった。
彼はやり返してやる議論か悪口を考えたが、思いあたらなかった。
ゴットフリートは続けていった。
「もしお前が、ここからコブレンツまであるほど大きな人物になったところで、たった一つの歌もつくれやすまい。」
 クリストフはむっとした。
「つくろうと思っても……」
「思えば思うほど出来なくなるんだ。歌をつくるには、あの通りでなくちゃいけない。おききよ……」
 月は野の向こうに昇って、まるく輝いていた。
銀色の靄(もや)が、地面とすれすれに、また鏡のような水面に漂っていた。
蛙(かえる)が語りあっていた。
牧場の中には、美しい調子の笛のような蟇(がま)のなく声が聞えていた。
蟋蟀(こおろぎ)の鋭い顫(ふる)え声は、星のきらめきに答えてるかのようだった。
風は静かに榛(はん)の枝をそよがしていた。
河の向こうの丘からは、鶯(うぐいす)のか弱い歌がひびいてきた。

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