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トカトントン(22/31)

(503字。目安の読了時間:2分)

 それからも、花江さんは相変らず、一週間か十日目くらいに、お金を持って来て貯金して、もういまでは何千円かの額になっていますが、私には少しも興味がありません。
花江さんの言ったように、それはおかみさんのお金なのか、または、やっぱり花江さんのお金なのか、どっちにしたって、それは全く私には関係の無い事ですもの。
 そうして、いったいこれは、どちらが失恋したという事になるのかと言えば、私には、どうしても、失恋したのは私のほうだというような気がしているのですけれども、しかし、失恋して別段かなしい気も致しませんから、これはよっぽど変った失恋の仕方だと思っています。
そうして私は、またもや、ぼんやりした普通の局員になったのです。
 六月にはいってから、私は用事があって青森へ行き、偶然、労働者のデモを見ました。
それまでの私は社会運動または政治運動というようなものには、あまり興味が無い、というよりは、絶望に似たものを感じていたのです。
誰がやったって、同じ様なものなんだ。
また自分が、どのような運動に参加したって、所詮はその指導者たちの、名誉慾か権勢慾の乗りかかった船の、犠牲になるだけの事だ。

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