桜の森の満開の下(6/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(628字。目安の読了時間:2分)
家の中から七人の女房が迎えに出てきましたが、山賊は石のようにこわばった身体をほぐして背中の女を下すだけで勢一杯でした。
七人の女房は今迄に見かけたこともない女の美しさに打たれましたが、女は七人の女房の汚さに驚きました。
七人の女房の中には昔はかなり綺麗な女もいたのですが今は見る影もありません。
女は薄気味悪がって男の背へしりぞいて、
「この山女は何なのよ」
「これは俺の昔の女房なんだよ」
と男は困って「昔の」という文句を考えついて加えたのはとっさの返事にしては良く出来ていましたが、女は容赦がありません。
「まア、これがお前の女房かえ」
「それは、お前、俺はお前のような可愛いい女がいようとは知らなかったのだからね」
「あの女を斬り殺しておくれ」
女はいちばん顔形のととのった一人を指して叫びました。
「だって、お前、殺さなくっとも、女中だと思えばいいじゃないか」
「お前は私の亭主を殺したくせに、自分の女房が殺せないのかえ。お前はそれでも私を女房にするつもりなのかえ」
男の結ばれた口から呻きがもれました。
男はとびあがるように一躍りして指された女を斬り倒していました。
然し、息つくひまもありません。
「この女よ。今度は、それ、この女よ」
男はためらいましたが、すぐズカズカ歩いて行って、女の頸へザクリとダンビラを斬りこみました。
首がまだコロコロととまらぬうちに、女のふっくらツヤのある透きとおる声は次の女を指して美しく響いていました。
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桜の森の満開の下(5/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(685字。目安の読了時間:2分)
彼は威張りかえって肩を張って、前の山、後の山、右の山、左の山、ぐるりと一廻転して女に見せて、
「これだけの山という山がみんな俺のものなんだぜ」
と言いましたが、女はそんなことにはてんで取りあいません。
彼は意外に又残念で、
「いいかい。お前の目に見える山という山、木という木、谷という谷、その谷からわく雲まで、みんな俺のものなんだぜ」
「早く歩いておくれ。私はこんな岩コブだらけの崖の下にいたくないのだから」
「よし、よし。今にうちにつくと飛びきりの御馳走をこしらえてやるよ」
「お前はもっと急げないのかえ。走っておくれ」
「なかなかこの坂道は俺が一人でもそうは駈けられない難所だよ」
「お前も見かけによらない意気地なしだねえ。私としたことが、とんだ甲斐性なしの女房になってしまった。ああ、ああ。これから何をたよりに暮したらいいのだろう」
「なにを馬鹿な。これぐらいの坂道が」
「アア、もどかしいねえ。お前はもう疲れたのかえ」
「馬鹿なことを。この坂道をつきぬけると、鹿もかなわぬように走ってみせるから」
「でもお前の息は苦しそうだよ。顔色が青いじゃないか」
「なんでも物事の始めのうちはそういうものさ。今に勢いのはずみがつけば、お前が背中で目を廻すぐらい速く走るよ」
けれども山賊は身体が節々からバラバラに分かれてしまったように疲れていました。
そしてわが家の前へ辿りついたときには目もくらみ耳もなり嗄れ声のひときれをふりしぼる力もありません。
家の中から七人の女房が迎えに出てきましたが、山賊は石のようにこわばった身体をほぐして背中の女を下すだけで勢一杯でした。
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【お知らせ】ブンゴウメールの姉妹サービス「ゾラサーチ」をリリースしました
いつもブンゴウメールをご利用いただきありがとうございます。
今日はブンゴウメールの姉妹サービスとして、青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービス「ゾラサーチ」をリリースしたのでお知らせします。
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【1】 どんなサービス?
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▼ゾラサーチ | 青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービス
青空文庫には現在約1.5万件の作品が登録されていますが、そこから読んだことがない本を選ぶのはなかなか大変です。
そこで、各作品を目安の読了時間で分類し、時間別・著者別で検索できるサービスを作りました。
たとえば、「5分で読める芥川竜之介の短編」みたいな探し方ができます。
▼5分以内で読める芥川竜之介の短編作品 | ゾラサーチ
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【2】 アピールポイント
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- 自動で人気の作品順に表示してくれるので、いい感じに作品を探せます
- 各作品の書き出しの一文も表示してくれるので、読む前に雰囲気がわかります
- かなりサクサク検索できます
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【3】 開発の背景
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ありがたいことにブンゴウメールも運営開始から1年近くが経ち、「ブンゴウメールをきっかけに読書の習慣ができた」と言ってもらえることも増えてきました。(すごくうれしいです!)
そこで、ブンゴウメールから読書に興味を持ってくれた方が、次に読む本を自分で探せるようなサービスを作りたいなという思いもあり、ゾラサーチを開発しました。
他にも色々背景はあるのですが、開発者ブログに詳しく書きましたのでご興味ある方はよければぜひそちらもご覧ください。
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読んだことがない文学作品はちょっとハードルが高く感じますが、青空文庫には5分とか10分で読める作品もたくさん登録されています。
ゾラサーチでそういう作品も簡単に探せるようになりますので、ちょっとした空き時間に何か読んでみようかなーというときなど、ぜひ便利に使ってもらえればと思います。
▼ゾラサーチ | 青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービス
それではまた明日!
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桜の森の満開の下(4/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(612字。目安の読了時間:2分)
山賊は承知承知と女を軽々と背負って歩きましたが、険しい登り坂へきて、ここは危いから降りて歩いて貰おうと言っても、女はしがみついて厭々、厭ヨ、と言って降りません。
「お前のような山男が苦しがるほどの坂道をどうして私が歩けるものか、考えてごらんよ」
「そうか、そうか、よしよし」と男は疲れて苦しくても好機嫌でした。
「でも、一度だけ降りておくれ。私は強いのだから、苦しくて、一休みしたいというわけじゃないぜ。眼の玉が頭の後側にあるというわけのものじゃないから、さっきからお前さんをオブっていてもなんとなくもどかしくて仕方がないのだよ。一度だけ下へ降りてかわいい顔を拝ましてもらいたいものだ」
「厭よ、厭よ」と、又、女はやけに首っ玉にしがみつきました。
「私はこんな淋しいところに一っときもジッとしていられないヨ。お前のうちのあるところまで一っときも休まず急いでおくれ。さもないと、私はお前の女房になってやらないよ。私にこんな淋しい思いをさせるなら、私は舌を噛んで死んでしまうから」
「よしよし。分った。お前のたのみはなんでもきいてやろう」
山賊はこの美しい女房を相手に未来のたのしみを考えて、とけるような幸福を感じました。
彼は威張りかえって肩を張って、前の山、後の山、右の山、左の山、ぐるりと一廻転して女に見せて、
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と言いましたが、女はそんなことにはてんで取りあいません。
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桜の森の満開の下(3/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(678字。目安の読了時間:2分)
けれども山賊は落付いた男で、後悔ということを知らない男ですから、これはおかしいと考えたのです。
ひとつ、来年、考えてやろう。
そう思いました。
今年は考える気がしなかったのです。
そして、来年、花がさいたら、そのときじっくり考えようと思いました。
毎年そう考えて、もう十何年もたち、今年も亦、来年になったら考えてやろうと思って、又、年が暮れてしまいました。
そう考えているうちに、始めは一人だった女房がもう七人にもなり、八人目の女房を又街道から女の亭主の着物と一緒にさらってきました。
女の亭主は殺してきました。
山賊は女の亭主を殺す時から、どうも変だと思っていました。
いつもと勝手が違うのです。
どこということは分らぬけれども、変てこで、けれども彼の心は物にこだわることに慣れませんので、そのときも格別深く心にとめませんでした。
山賊は始めは男を殺す気はなかったので、身ぐるみ脱がせて、いつもするようにとっとと失せろと蹴とばしてやるつもりでしたが、女が美しすぎたので、ふと、男を斬りすてていました。
彼自身に思いがけない出来事であったばかりでなく、女にとっても思いがけない出来事だったしるしに、山賊がふりむくと女は腰をぬかして彼の顔をぼんやり見つめました。
今日からお前は俺の女房だと言うと、女はうなずきました。
手をとって女を引き起すと、女は歩けないからオブっておくれと言います。
山賊は承知承知と女を軽々と背負って歩きましたが、険しい登り坂へきて、ここは危いから降りて歩いて貰おうと言っても、女はしがみついて厭々、厭ヨ、と言って降りません。
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桜の森の満開の下(2/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(655字。目安の読了時間:2分)
なぜなら人間の足の早さは各人各様で、一人が遅れますから、オイ待ってくれ、後から必死に叫んでも、みんな気違いで、友達をすてて走ります。
それで鈴鹿峠の桜の森の花の下を通過したとたんに今迄仲のよかった旅人が仲が悪くなり、相手の友情を信用しなくなります。
そんなことから旅人も自然に桜の森の下を通らないで、わざわざ遠まわりの別の山道を歩くようになり、やがて桜の森は街道を外れて人の子一人通らない山の静寂へとり残されてしまいました。
そうなって何年かあとに、この山に一人の山賊が住みはじめましたが、この山賊はずいぶんむごたらしい男で、街道へでて情容赦なく着物をはぎ人の命も断ちましたが、こんな男でも桜の森の花の下へくるとやっぱり怖しくなって気が変になりました。
そこで山賊はそれ以来花がきらいで、花というものは怖しいものだな、なんだか厭なものだ、そういう風に腹の中では呟いていました。
花の下では風がないのにゴウゴウ風が鳴っているような気がしました。
そのくせ風がちっともなく、一つも物音がありません。
自分の姿と跫音ばかりで、それがひっそり冷めたいそして動かない風の中につつまれていました。
花びらがぽそぽそ散るように魂が散っていのちがだんだん衰えて行くように思われます。
それで目をつぶって何か叫んで逃げたくなりますが、目をつぶると桜の木にぶつかるので目をつぶるわけにも行きませんから、一そう気違いになるのでした。
けれども山賊は落付いた男で、後悔ということを知らない男ですから、これはおかしいと考えたのです。
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桜の森の満開の下(1/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(646字。目安の読了時間:2分)
桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩い
なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲ
近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩してい
昔、鈴鹿峠にも旅人が桜の森の花の下を通らなければならないよう
花の咲かない頃はよろしいのですが、花の季節になると、旅人はみ
できるだけ早く花の下から逃げようと思って、青い木や枯れ木のあ
一人だとまだよいので、なぜかというと、花の下を一目散に逃げて
なぜなら人間の足の早さは各人各様で、一人が遅れますから、オイ
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【お知らせ】
というわけで、4月は坂口安吾『桜の森の満開の下』をお送りしま
ちょうど桜が満開な時期にお届けできて大変どや顔をしております
ちなみに、ブンゴウメールPROの「裏番組チャネル」では、夕方
RSSフィードは無料で購読できますので、1冊で物足りない方・
https://bungomail.com/channels
ちなみにちなみに、今日から「ALTER EGO(オルタエゴ)」公式チャネルの配信も開始しています!
初回から「エス」のコメント付きで配信されていますので、ぜひこ
https://bungomail.com/channels
それでは、今月も最後までお楽しみくださいませ〜!
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