老妓抄(19/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(562字。目安の読了時間:2分)
そういう場合、未成熟の娘の心身から、利かん気を僅かに絞り出す、病鶏のささ身ほどの肉感的な匂いが、柚木には妙に感覚にこたえて、思わず肺の底へ息を吸わした。
だが、それは刹那的のものだった。
心に打ち込むものはなかった。
若い芸妓たちは、娘の挑戦を快くは思わなかったらしいが、大姐さんの養女のことではあり、自分達は職業的に来ているのだから、無理な骨折りを避けて、娘が努めるときは媚びを差控え、娘の手が緩むと、またサービスする。
みち子にはそれが自分の菓子の上にたかる蠅のようにうるさかった。
何となくその不満の気持ちを晴らすらしく、みち子は老妓に当ったりした。
老妓はすべてを大して気にかけず、悠々と土手でカナリヤの餌のはこべを摘んだり菖蒲園できぬかつぎを肴にビールを飲んだりした。
夕暮になって、一行が水神の八百松へ晩餐をとりに入ろうとすると、みち子は、柚木をじろりと眺めて
「あたし、和食のごはんたくさん、一人で家に帰る」と云い出した。
芸妓たちが驚いて、では送ろうというと、老妓は笑って
「自動車に乗せてやれば、何でもないよ」といって通りがかりの車を呼び止めた。
自動車の後姿を見て老妓は云った。
「あの子も、おつな真似をすることを、ちょんぼり覚えたね」
柚木にはだんだん老妓のすることが判らなくなった。
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ブンゴウメールPRO版 サービス終了のお知らせ
(このメールはブンゴウメールPROにご登録いただいた方にお送りしております)
いつもブンゴウメールPROをご利用ありがとうございます。
大変残念なお知らせですが、11月末をもってブンゴウメールPROのサービスを一旦終了することとなりました。以下詳細をお知らせいたしますが、ご不明な点などあればいつでも運営までお問い合わせください。
(無料版ブンゴウメールの配信は今後も引き続き継続いたします)
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■概要
・2019年11月末で、ブンゴウメールPROのすべての機能の提供を終了いたします。
・PROプランで提供されているすべてのチャネルの配信が、11月末で停止いたします。
・「ALTER EGOチャネル」の配信も同様に11月末で終了いたします。
・有料会員の課金は自動的に停止され、サービス終了後に課金されることは一切ありません。
・ブンゴウメール公式チャネルのHTMLメール配信、LINE配信も同タイミングで終了いたします。
■補足
・PROプランへの登録、作品の配信設定(有料会員のみ)は、サービス終了まで引き続き行えます。
・ただし作品の配信途中であっても11月末時点で配信は停止してしまいます。もし現在すでに長編作品を配信中で、どうしても最後まで読みたいという方は運営まで個別にご相談ください。
・10月に課金更新日を迎えた方から、順次課金を停止いたします。その後はサービス終了まで無料でお使いいただけます(もともと課金登録していない方は、最後までこれまで通り利用できます)。
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突然のお知らせとなり、また愛用してくださっている方もいる中でのサービス終了となり誠に申し訳ありません。
背景としては、PROプランの提供にあたってシステムのメンテナンスコストが膨らんでしまっており、システムの維持が負担になってきておりました。ブンゴウメール本体を長期的に安定して提供することを最優先で考えた結果、このタイミングで一度システムを整理するという判断となっております。
ご不便をおかけして申し訳ありませんが、ご理解いただければ幸いです。
まだPROがβ版で不具合もあった頃から使っていただいていたみなさま、本当にありがとうございました。積極的にフィードバックをいただいたおかげで、当初予定していたよりもいい機能に仕上げることができたと思っています。
また、ブンゴウメールへの応援も兼ねて登録いただいていたみなさま、いつも本当にありがとうございます。本体のブンゴウメールは継続して長く続けていけるようにと考えていますので、今後もお楽しみいただければ幸いです。
またALTER EGOコラボをきっかけにご登録いただいていたみなさま。今回の決定でALTER EGOチャネルも終了してしまうこととなり、大変申し訳ありません。。私自身も配信を楽しみにしていたので本当に残念です。残り2ヶ月ですが、最後まで配信をお楽しみいただければと思います。
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残念ながらPROプランはこれでひとまず終了いたしますが、将来的によい方法が見つかればまたいつか再開したいとは思っています。あまり期待せず、気長にお待ちいただければ幸いです。
長くなりましたが、これまでのご利用本当にありがとうございました。
残りわずかですが、11月まで引き続きどうぞお楽しみください。
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老妓抄(18/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(630字。目安の読了時間:2分)
「いつ死のうかと逢う度毎に相談しながら、のびのびになっているうちに、ある日川の向うに心中態の土左衛門が流れて来たのだよ。人だかりの間から熟々眺めて来て男は云ったのさ。心中ってものも、あれはざまの悪いものだ。やめようって」
「あたしは死んでしまったら、この男にはよかろうが、あとに残る旦那が可哀想だという気がして来てね。どんな身の毛のよだつような男にしろ、嫉妬をあれほど妬かれるとあとに心が残るものさ」
若い芸妓たちは「姐さんの時代ののんきな話を聴いていると、私たちきょう日の働き方が熟々がつがつにおもえて、いやんなっちゃう」と云った。
すると老妓は「いや、そうでないねえ」と手を振った。
「この頃はこの頃でいいところがあるよ。それにこの頃は何でも話が手取り早くて、まるで電気のようでさ、そしていろいろの手があって面白いじゃないか」
そういう言葉に執成されたあとで、年下の芸妓を主に年上の芸妓が介添になって、頻りに艶めかしく柚木を取持った。
みち子はというと何か非常に動揺させられているように見えた。
はじめは軽蔑した超然とした態度で、一人離れて、携帯のライカで景色など撮していたが、にわかに柚木に慣れ慣れしくして、柚木の歓心を得ることにかけて、芸妓たちに勝越そうとする態度を露骨に見せたりした。
そういう場合、未成熟の娘の心身から、利かん気を僅かに絞り出す、病鶏のささ身ほどの肉感的な匂いが、柚木には妙に感覚にこたえて、思わず肺の底へ息を吸わした。
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老妓抄(17/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(608字。目安の読了時間:2分)
顔は少し横向きになっていたので、厚く白粉をつけて、白いエナメルほど照りを持つ頬から中高の鼻が彫刻のようにはっきり見えた。
老妓は船の中の仕切りに腰かけていて、帯の間から煙草入れとライターを取出しかけながら
「いい景色だね」と云った。
円タクに乗ったり、歩いたりして、一行は荒川放水路の水に近い初夏の景色を見て廻った。
工場が殖え、会社の社宅が建ち並んだが、むかしの鐘ヶ淵や、綾瀬の面かげは石炭殻の地面の間に、ほんの切れ端になってところどころに残っていた。
綾瀬川の名物の合歓の木は少しばかり残り、対岸の蘆洲の上に船大工だけ今もいた。
「あたしが向島の寮に囲われていた時分、旦那がとても嫉妬家でね、この界隈から外へは決して出してくれない。それであたしはこの辺を散歩すると云って寮を出るし、男はまた鯉釣りに化けて、この土手下の合歓の並木の陰に船を繋って、そこでいまいうランデブウをしたものさね」
夕方になって合歓の花がつぼみかかり、船大工の槌の音がいつの間にか消えると、青白い河靄がうっすり漂う。
「私たちは一度心中の相談をしたことがあったのさ。なにしろ舷一つ跨げば事が済むことなのだから、ちょっと危かった」
「どうしてそれを思い止ったのか」と柚木はせまい船のなかをのしのし歩きながら訊いた。
「いつ死のうかと逢う度毎に相談しながら、のびのびになっているうちに、ある日川の向うに心中態の土左衛門が流れて来たのだよ。
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老妓抄(16/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(607字。目安の読了時間:2分)
生れてこんなこと始めてだ」
「麦とろの食べ過ぎかね」老妓は柚木がよく近所の麦飯ととろろを看板にしている店から、それを取寄せて食べるのを知っているものだから、こうまぜっかえしたが、すぐ真面目になり「そんなときは、何でもいいから苦労の種を見付けるんだね。苦労もほどほどの分量にゃ持ち合せているもんだよ」
それから二三日経って、老妓は柚木を外出に誘った。
連れにはみち子と老妓の家の抱えでない柚木の見知らぬ若い芸妓が二人いた。
若い芸妓たちは、ちょっとした盛装をしていて、老妓に
「姐さん、今日はありがとう」と丁寧に礼を云った。
老妓は柚木に
「今日は君の退屈の慰労会をするつもりで、これ等の芸妓たちにも、ちゃんと遠出の費用を払ってあるのだ」と云った。
「だから、君は旦那になったつもりで、遠慮なく愉快をすればいい」
なるほど、二人の若い芸妓たちは、よく働いた。
竹屋の渡しを渡船に乗るときには年下の方が柚木に「おにいさん、ちょっと手を取って下さいな」と云った。
そして船の中へ移るとき、わざとよろけて柚木の背を抱えるようにして掴った。
柚木の鼻に香油の匂いがして、胸の前に後襟の赤い裏から肥った白い首がむっくり抜き出て、ぼんの窪の髪の生え際が、青く霞めるところまで、突きつけたように見せた。
顔は少し横向きになっていたので、厚く白粉をつけて、白いエナメルほど照りを持つ頬から中高の鼻が彫刻のようにはっきり見えた。
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老妓抄(15/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(646字。目安の読了時間:2分)
「おまえさんは、この頃、どうかおしかえ」
と老妓はしばらく柚木をじろじろ見ながらいった。
「いいえさ、勉強しろとか、早く成功しろとか、そんなことをいうんじゃないよ。まあ、魚にしたら、いきが悪くなったように思えるんだが、どうかね。自分のことだけだって考え剰っている筈の若い年頃の男が、年寄の女に向って年齢のことを気遣うのなども、もう皮肉に気持ちがこずんで来た証拠だね」
柚木は洞察の鋭さに舌を巻きながら、正直に白状した。
「駄目だな、僕は、何も世の中にいろ気がなくなったよ。いや、ひょっとしたら始めからない生れつきだったかも知れない」
「そんなこともなかろうが、しかし、もしそうだったら困ったものだね。君は見違えるほど体など肥って来たようだがね」
事実、柚木はもとよりいい体格の青年が、ふーっと膨れるように脂肪がついて、坊ちゃんらしくなり、茶色の瞳の眼の上瞼の腫れ具合や、顎が二重に括れて来たところに艶めいたいろさえつけていた。
「うん、体はとてもいい状態で、ただこうやっているだけで、とろとろしたいい気持ちで、よっぽど気を張り詰めていないと、気にかけなくちゃならないことも直ぐ忘れているんだ。それだけ、また、ふだん、いつも不安なのだよ。生れてこんなこと始めてだ」
「麦とろの食べ過ぎかね」老妓は柚木がよく近所の麦飯ととろろを看板にしている店から、それを取寄せて食べるのを知っているものだから、こうまぜっかえしたが、すぐ真面目になり「そんなときは、何でもいいから苦労の種を見付けるんだね。
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老妓抄(14/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(556字。目安の読了時間:2分)
…中の皺を足の裏へ、括って溜めているという評判だが、あんたなんかまだその必要はなさそうだなあ」
老妓の眼はぎろりと光ったが、すぐ微笑して
「あたしかい、さあ、もうだいぶ年越の豆の数も殖えたから、前のようには行くまいが、まあ試しに」といって、老妓は左の腕の袖口を捲って柚木の前に突き出した。
「あんたがだね。ここの腕の皮を親指と人差指で力一ぱい抓って圧えててご覧」
柚木はいう通りにしてみた。
柚木にそうさせて置いてから、老妓はその反対側の腕の皮膚を自分の右の二本の指で抓って引くと、柚木の指に挾まっていた皮膚はじいわり滑り抜けて、もとの腕の形に納まるのである。
もう一度柚木は力を籠めて試してみたが、老妓にひかれると滑り去って抓り止めていられなかった。
鰻の腹のような靱い滑かさと、羊皮紙のような神秘な白い色とが、柚木の感覚にいつまでも残った。
「気持ちの悪い……。だが驚いたなあ」
老妓は腕に指痕の血の気がさしたのを、縮緬の襦袢の袖で擦り散らしてから、腕を納めていった。
「小さいときから、打ったり叩かれたりして踊りで鍛えられたお蔭だよ」
だが、彼女はその幼年時代の苦労を思い起して、暗澹とした顔つきになった。
「おまえさんは、この頃、どうかおしかえ」
と老妓はしばらく柚木をじろじろ見ながらいった。
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