【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (5/31)
(694字。目安の読了時間:2分)
それに、彼が再び包む時にチラと見た所によると、額の表面に描かれた極彩色の絵が、妙に生々しく、何となく世の常ならず見えたことであった。
私は更めて、この変てこな荷物の持主を観察した。
そして、持主その人が、荷物の異様さにもまして、一段と異様であったことに驚かされた。
彼は非常に古風な、我々の父親の若い時分の色あせた写真でしか見ることの出来ない様な、襟の狭い、肩のすぼけた、黒の背広服を着ていたが、併しそれが、背が高くて、足の長い彼に、妙にシックリと合って、甚だ意気にさえ見えたのである。
顔は細面で、両眼が少しギラギラし過ぎていた外は、一体によく整っていて、スマートな感じであった。
そして、綺麗に分けた頭髪が、豊に黒々と光っているので、一見四十前後であったが、よく注意して見ると、顔中に夥(おびただ)しい皺(しわ)があって、一飛びに六十位にも見えぬことはなかった。
この黒々とした頭髪と、色白の顔面を縦横にきざんだ皺との対照が、初めてそれに気附いた時、私をハッとさせた程も、非常に不気味な感じを与えた。
彼は叮嚀(ていねい)に荷物を包み終ると、ひょいと私の方に顔を向けたが、丁度私の方でも熱心に相手の動作を眺めていた時であったから、二人の視線がガッチリとぶっつかってしまった。
すると、彼は何か恥かし相に唇の隅を曲げて、幽かに笑って見せるのであった。
私も思わず首を動かして挨拶を返した。
それから、小駅を二三通過する間、私達はお互の隅に坐ったまま、遠くから、時々視線をまじえては、気まずく外方を向くことを、繰返していた。
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