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【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (12/31)

(655字。目安の読了時間:2分)  焦点が合って行くに従って、二つの円形の視野が、徐々に一つに重なり、ボンヤリとした虹の様なものが、段々ハッキリして来ると、びっくりする程大きな娘の胸から上が、それが全世界ででもある様に、私の眼界一杯に拡がった。  あんな風な物の現われ方を、私はあとにも先にも見たことがないので、読む人に分らせるのが難儀なのだが、それに近い感じを思い出して見ると、例えば、舟の上から、海にもぐった蜑(あま)の、ある瞬間の姿に似ていたとでも形容すべきであろうか。 蜑の裸身が、底の方にある時は、青い水の層の複雑な動揺の為に、その身体が、まるで海草の様に、不自然にクネクネと曲り、輪廓もぼやけて、白っぽいお化みたいに見えているが、それが、つうッと浮上って来るに従って、水の層の青さが段々薄くなり、形がハッキリして来て、ポッカリと水上に首を出すと、その瞬間、ハッと目が覚めた様に、水中の白いお化が、忽(たちま)ち人間の正体を現わすのである。 丁度それと同じ感じで、押絵の娘は、双眼鏡の中で、私の前に姿を現わし、実物大の、一人の生きた娘として、蠢(うごめ)き始めたのである。  十九世紀の古風なプリズム双眼鏡の玉の向う側には、全く私達の思いも及ばぬ別世界があって、そこに結綿の色娘と、古風な洋服の白髪男とが、奇怪な生活を営んでいる。 覗いては悪いものを、私は今魔法使に覗かされているのだ。 といった様な形容の出来ない変てこな気持で、併し私は憑(つ)かれた様にその不可思議な世界に見入ってしまった。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/me2p48 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] 忙しいあなたも、耳は意外とヒマしてる!耳で読書できる便利アプリ。好みの一冊があるか、ぜひ調べてみよう! ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/xL67HL ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*