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【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (25/31)

(683字。目安の読了時間:2分) そして、『お前、私達が探していた娘さんはこの中にいるよ』と申すのです。  そう云われたものですから、私は急いでおあしを払って、覗きの眼鏡を覗いて見ますと、それは八百屋お七の覗きからくりでした。 丁度吉祥寺の書院で、お七が吉三にしなだれかかっている絵が出て居りました。 忘れもしません。 からくり屋の夫婦者は、しわがれ声を合せて、鞭で拍子を取りながら、『膝でつっらついて、目で知らせ』と申す文句を歌っている所でした。 アア、あの『膝でつっらついて、目で知らせ』という変な節廻しが、耳についている様でございます。  覗き絵の人物は押絵になって居りましたが、その道の名人の作であったのでしょうね。 お七の顔の生々として綺麗であったこと。 私の目にさえ本当に生きている様に見えたのですから、兄があんなことを申したのも、全く無理はありません。 兄が申しますには『仮令この娘さんが、拵えものの押絵だと分っても、私はどうもあきらめられない。 悲しいことだがあきらめられない。 たった一度でいい、私もあの吉三の様な、押絵の中の男になって、この娘さんと話がして見たい』と云って、ぼんやりと、そこに突っ立ったまま、動こうともしないのでございます。 考えて見ますとその覗きからくりの絵が、光線を取る為に上の方が開けてあるので、それが斜めに十二階の頂上からも見えたものに違いありません。  その時分には、もう日が暮かけて、人足もまばらになり、覗きの前にも、二三人のおかっぱの子供が、未練らしく立去り兼ねて、うろうろしているばかりでした。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/me2p48 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] 無料で50分英会話レッスンが受講できる人気のアプリ「レアジョブ英会話」 ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/i56Kg6 ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*