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【ブンゴウメール】オシャベリ姫 (22/31)

(868字。目安の読了時間:2分)

けれども全くなくなると妙な顔に見えるので、この国の人は鼻の下の、昔口のあったところに赤い唇の絵を書いておくのです」

「それじゃ、あなたはどうして口がおありになるのですか」

 と姫は尋ねました。

 若い人はこう尋ねられると顔を真赤にしましたが、やがて悲しそうにこう答えました。

 王子はその大きな眼に涙を一パイ溜めながら、

「この国中の人間が皆口が無いのに、私一人口があるのについては、それはそれは悲しいお話があります。あなたはあの山梔子という花を御存じですか」

 と不意に王子は尋ねました。

「ええ、よく知っています。あの晩方に大きな花を咲かせる木で、大変にいいにおいがします。花が真白なのとにおいがいいので夜でもよくわかります」

 と答えました。

 王子はうなずきました。

「その山梔子の樹は名前を『口なし』と書くので、昔からこの国の人々が大好きでした。ですから先祖の王様は国中にありたけの道ばたに、どんな小径にも植えさせました。そうすればどんな暗い夜でも、そのにおいと白花を目あてにして道を迷わずに行かれるからです。

 ……さて……私の母の妃は名をクチナシ姫とつけられました位で、まだ小さい時からこの口なしの花が何よりも好きでした。そうしてある月の夜、クチナシの白い花を次から次へ嗅ぎながらいつの間にかお城を出て、西へ西へとだんだん遠くあるいて来ました……。

 ところがお城を離れれば離れるほど山梔子の花が少なくなって、しまいにはどちらを向いてもにおいもしなければ、白い花も無いようになりました……。そうして夜が明けますと、とうとう迷子になって、知らない国へ来てしまいました」

「まあ……ちょうど妾のようですこと……」

 と姫は思わず云いました。

「それからお母様のクチナシ姫はどうなさいましたか」

 王子はやはり悲しそうにして、次のようにお話をつづけました。

「クチナシ姫は、何の気もなしにその国へズンズン這入って行きますと、その国の人がだれもかれも面白そうにお話をしているのにビックリしました。

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