【ブンゴウメール】オシャベリ姫 (24/31)
(892字。目安の読了時間:2分)
あの花さえ無ければ、私はあんなにほかの国へ行かなくともよかったのに。そうしてこんなに恥かしい、口惜しい思いをせずともよかったのに』
と思いますと、もうクチナシの花やそのにおいがいやでしようがありませんでした。
『ああ。あの花がなくなったらどんなにかいいだろう』
と思うようになりました。けれども国中のクチナシはなかなか枯れません。
そのうちにクチナシ姫は大きくなって、王様のお妃様になりましたが、そのころからこの国中のクチナシの花は一つも咲かなくなってしまいました。これはどうしたことと云っているうちに、お妃様は玉のような一人の王子をお生みになりました。
それが私なのです」
と王子は云われました。
オシャベリ姫は、あんまり不思議なお話なのでオシャベリどころでなく、王子の顔を一心にみつめてお話をきいておりました。
王子はお話をつづけました。
「私は不思議にも生まれた時から口がありまして、オギャアオギャアと泣きましたそうで、そのために赤ン坊の泣き声を聞いたことのないこの国の人々は『王様のお城に化け物が生まれた』と大騒ぎを初めました」
「まあ、何と馬鹿でしょうね。当り前のことなのに」
と姫はやっと口を利きました。
「けれどもこの国では不思議がるのが当り前なのです。それで私の父の王は私の母の妃に、その口を針と糸で縫い塞いでしまえと云いましたが、私の母の妃は生れ付き情深い女ですから、どうしてそんな無慈悲なことが出来ましょう。仕方がありませんから私の口に綿を一パイに詰めて、上から繃帯をしまして、針で縫うた傷がいつまでも治らないように見せました。そうして父の王が狩猟に行きますと、その留守に母の妃は私をつれて、地の下の窖(あなぐら)に連れて行って、口の繃帯を解いてやりまして、私の口に手を当ていろいろ物の云い方を教えてくれましたので、私は十歳ばかりの時にはもう立派にお話が出来るようになっていました」
「ほんとにお母様は教えることがお上手なのですね」
「けれどもある日の事、とうとう私のオシャベリのお稽古が父の王に見つけられてしまいました。
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