桜の森の満開の下(24/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(616字。目安の読了時間:2分)
空の無限の明暗を走りつづけることは、女を殺すことによって、とめることができます。
そして、空は落ちてきます。
彼はホッとすることができます。
然し、彼の心臓には孔があいているのでした。
彼の胸から鳥の姿が飛び去り、掻き消えているのでした。
あの女が俺なんだろうか? そして空を無限に直線に飛ぶ鳥が俺自身だったのだろうか? と彼は疑りました。
女を殺すと、俺を殺してしまうのだろうか。
俺は何を考えているのだろう?
なぜ空を落さねばならないのだか、それも分らなくなっていました。
あらゆる想念が捉えがたいものでありました。
そして想念のひいたあとに残るものは苦痛のみでした。
夜が明けました。
彼は女のいる家へ戻る勇気が失われていました。
そして数日、山中をさまよいました。
ある朝、目がさめると、彼は桜の花の下にねていました。
その桜の木は一本でした。
桜の木は満開でした。
彼は驚いて飛び起きましたが、それは逃げだすためではありません。
なぜなら、たった一本の桜の木でしたから。
彼は鈴鹿の山の桜の森のことを突然思いだしていたのでした。
あの山の桜の森も花盛りにちがいありません。
彼はなつかしさに吾を忘れ、深い物思いに沈みました。
山へ帰ろう。
山へ帰るのだ。
なぜこの単純なことを忘れていたのだろう? そして、なぜ空を落すことなどを考え耽っていたのだろう? 彼は悪夢のさめた思いがしました。
救われた思いがしました。
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