老妓抄(6/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(562字。目安の読了時間:2分)
水を口から注ぎ込むとたちまち湯になって栓口から出るギザーや、煙管の先で圧すと、すぐ種火が点じて煙草に燃えつく電気莨盆や、それらを使いながら、彼女の心は新鮮に慄えるのだった。
「まるで生きものだね、ふーム、物事は万事こういかなくっちゃ……」
その感じから想像に生れて来る、端的で速力的な世界は、彼女に自分のして来た生涯を顧みさせた。
「あたしたちのして来たことは、まるで行燈をつけては消し、消してはつけるようなまどろい生涯だった」
彼女はメートルの費用の嵩むのに少なからず辟易しながら、電気装置をいじるのを楽しみに、しばらくは毎朝こどものように早起した。
電気の仕掛けはよく損じた。
近所の蒔田という電気器具商の主人が来て修繕した。
彼女はその修繕するところに附纏って、珍らしそうに見ているうちに、彼女にいくらかの電気の知識が摂り入れられた。
「陰の電気と陽の電気が合体すると、そこにいろいろの働きを起して来る。ふーむ、こりゃ人間の相性とそっくりだねえ」
彼女の文化に対する驚異は一層深くなった。
女だけの家では男手の欲しい出来事がしばしばあった。
それで、この方面の支弁も兼ねて蒔田が出入していたが、あるとき、蒔田は一人の青年を伴って来て、これから電気の方のことはこの男にやらせると云った。
名前は柚木といった。
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