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老妓抄(1/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(539字。目安の読了時間:2分)

 平出園子というのが老妓の本名だが、これは歌舞伎俳優の戸籍名のように当人の感じになずまないところがある。

そうかといって職業上の名の小そのとだけでは、だんだん素人の素朴な気持ちに還ろうとしている今日の彼女の気品にそぐわない。

 ここではただ何となく老妓といって置く方がよかろうと思う。

 人々は真昼の百貨店でよく彼女を見かける。

 目立たない洋髪に結び、市楽の着物を堅気風につけ、小女一人連れて、憂鬱な顔をして店内を歩き廻る。

恰幅のよい長身に両手をだらりと垂らし、投出して行くような足取りで、一つところを何度も廻り返す。

そうかと思うと、紙凧の糸のようにすっとのして行って、思いがけないような遠い売場に佇む。

彼女は真昼の寂しさ以外、何も意識していない。

 こうやって自分を真昼の寂しさに憩わしている、そのことさえも意識していない。

ひょっと目星い品が視野から彼女を呼び覚すと、彼女の青みがかった横長の眼がゆったりと開いて、対象の品物を夢のなかの牡丹のように眺める。

唇が娘時代のように捲れ気味に、片隅へ寄ると其処に微笑が泛ぶ。

また憂鬱に返る。

 だが、彼女は職業の場所に出て、好敵手が見つかると、はじめはちょっと呆けたような表情をしたあとから、いくらでも快活に喋舌り出す。

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