武蔵野(29/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(679字。目安の読了時間:2分)
…まり東京市街の一端、あるいは甲州街道となり、あるいは青梅道となり、あるいは中原道となり、あるいは世田ヶ谷街道となりて、郊外の林地田圃に突入する処の、市街ともつかず宿駅ともつかず、一種の生活と一種の自然とを配合して一種の光景を呈しおる場処を描写することが、すこぶる自分の詩興を喚び起こすも妙ではないか。
なぜかような場処が我らの感を惹くだらうか[#「だらうか」はママ]。
自分は一言にして答えることができる。
すなわちこのような町外れの光景は何となく人をして社会というものの縮図でも見るような思いをなさしむるからであろう。
言葉を換えていえば、田舎の人にも都会の人にも感興を起こさしむるような物語、小さな物語、しかも哀れの深い物語、あるいは抱腹するような物語が二つ三つそこらの軒先に隠れていそうに思われるからであろう。
さらにその特点をいえば、大都会の生活の名残と田舎の生活の余波とがここで落ちあって、緩やかにうずを巻いているようにも思われる。
見たまえ、そこに片眼の犬が蹲っている。
この犬の名の通っているかぎりがすなわちこの町外れの領分である。
見たまえ、そこに小さな料理屋がある。
泣くのとも笑うのとも分からぬ声を振立ててわめく女の影法師が障子に映っている。
外は夕闇がこめて、煙の臭いとも土の臭いともわかちがたき香りが淀んでいる。
大八車が二台三台と続いて通る、その空車の轍の響が喧しく起こりては絶え、絶えては起こりしている。
見たまえ、鍛冶工の前に二頭の駄馬が立っているその黒い影の横のほうで二三人の男が何事をかひそひそと話しあっているのを。
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