武蔵野(28/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
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かの橋の上には村のもの四五人集まっていて、欄に倚って何事をか語り何事をか笑い、何事をか歌っていた。
その中に一人の老翁がまざっていて、しきりに若い者の話や歌をまぜッかえしていた。
月はさやかに照り、これらの光景を朦朧たる楕円形のうちに描きだして、田園詩の一節のように浮かべている。
自分たちもこの画中の人に加わって欄に倚って月を眺めていると、月は緩るやかに流るる水面に澄んで映っている。
羽虫が水を摶つごとに細紋起きてしばらく月の面に小皺がよるばかり。
流れは林の間をくねって出てきたり、また林の間に半円を描いて隠れてしまう。
林の梢に砕けた月の光が薄暗い水に落ちてきらめいて見える。
水蒸気は流れの上、四五尺の処をかすめている。
大根の時節に、近郊を散歩すると、これらの細流のほとり、いたるところで、農夫が大根の土を洗っているのを見る。
九
かならずしも道玄坂といわず、また白金といわず、つまり東京市街の一端、あるいは甲州街道となり、あるいは青梅道となり、あるいは中原道となり、あるいは世田ヶ谷街道となりて、郊外の林地田圃に突入する処の、市街ともつかず宿駅ともつかず、一種の生活と一種の自然とを配合して一種の光景を呈しおる場処を描写することが、すこぶる自分の詩興を喚び起こすも妙ではないか。
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