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機械(26/30)

(856字。目安の読了時間:2分)

そう思ってはみても結局二人から、同時に殴られなかったのは屋敷だけで一番殴られるべき責任のある筈の彼が一番うまいことをしたのだから私も彼を一度殴り返すぐらいのことはしても良いのだがとにかくもうそのときはぐったり私たちは疲れていた。
実際私たちのこの馬鹿馬鹿しい格闘も原因は屋敷が暗室へ這入ったことからだとはいえ五万枚のネームプレートを短時日の間に仕上げた疲労がより大きな原因になっていたに決まっているのだ。
殊に真鍮を腐蝕させるときの塩化鉄の塩素はそれが多量に続いて出れば出るほど神経を疲労させるばかりではなく人間の理性をさえ混乱させてしまうのだ。
その癖本能だけはますます身体の中で明瞭に性質を表して来るのだからこのネームプレート製造所で起る事件に腹を立てたりしていてはきりがないのだがそれにしても屋敷に殴られたことだけは相手が屋敷であるだけに私は忘れることは出来ない。
私を殴った屋敷は私にどういう態度をとるであろうか、彼の出方でひとつ彼を赤面させてやろうと思っているといつ終ったとも分らずに終った事件の後で屋敷がいうにはどうもあのとき君を殴ったのは悪いと思ったが君をあのとき殴らなければいつまで軽部に自分が殴られるかもしれなかったから事件に終りをつけるために君を殴らせて貰ったのだ、赦してくれという。
実際私も気附かなかったのだがあのとき一番悪くない私が二人から殴られなかったなら事件はまだまだ続いていたにちがいないのだ。
それでは私はまだ矢っ張りこんなときにも屋敷の盗みを守っていたのかと思って苦笑するより仕方がなくなりせっかく屋敷を赤面させてやろうと思っていた楽しみも失ってしまってますます屋敷の優れた智謀に驚かされるばかりとなったので、私も忌々しくなって来て屋敷にそんなにうまく君が私を使ったからには暗室の方も定めしうまくいったのであろうというと、彼は彼で手馴れたもので君までそんなことをいうようでは軽部が私を殴るのだって当然だ、軽部に火を点けたのは君ではないのかといって笑ってのけるのだ。

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