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機械(28/30)

(816字。目安の読了時間:2分)

…かじめ主人が金を落すであろうと予想してついていったというのだから、このことだけは予想に違わず事件は進行していたのにちがいないが、ふと久し振りに大金を儲けた楽しさからたとえ一瞬の間でも良い儲けた金額を持ってみたいと主人がいったのでつい油断をして同情してしまい、主人に暫くの間その金を持たしたのだという。
その間に一つの欠陥がこれも確実な機械のように働いていたのである。
勿論落した金額がもう一度出て来るなどと思っている者はいないから警察へ届けはしたものの一家はもう青ざめ切ってしまって言葉などいうものは誰もなく、私たちは私たちで賃金も貰うことが出来ないのだから一時に疲れが出て来て仕事場に寝そべったまま動こうともしないのだ。
軽部は手当り次第に乾板をぶち砕いて投げつけると急に私に向って何ぜお前はにやにやしているのかと突きかかって来た。
私は別ににやにやしていたと思わないのだがそれがそんなに軽部に見えたのなら或いは笑っていたのかしれない。
確にあんまり主人の頭は奇怪だからだ。
それは塩化鉄の長年の作用の結果なのかもしれないと思ってみても頭の欠陥ほど恐るべきものはないではないか。
そうしてその主人の欠陥がまた私たちをひき附けていて怒ることも出来ない原因になっているということはこれは何という珍稀な構造の廻り方なのであろう。
しかし、私はそんなことを軽部に聞かせてやっても仕方がないので黙っていると突然私を睨みつけていた軽部が手を打って、よしッ酒を飲もうといい出すと立ち上った。
丁度それは軽部がいわなくても私たちの中の誰かがもう直ぐいい出さねばならない瞬間に偶然軽部がいっただけなので、何の不自然さもなく直ぐすらすらと私たちの気分は酒の方へ向っていったのだ。
実際そういう時には若者達は酒でも飲むより仕方のないときなのだがそれがこの酒のために屋敷の生命までが亡くなろうとは屋敷だって思わなかったにちがいない。

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