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【ブンゴウメール】夢十夜 (20/29)

(722字。目安の読了時間:2分)


するとその異人が金牛宮の頂にある七星の話をして聞かせた。
そうして星も海もみんな神の作ったものだと云った。
最後に自分に神を信仰するかと尋ねた。
自分は空を見て黙っていた。


 或時サローンに這入ったら派手な衣裳を着た若い女が向うむきにな って、洋琴を弾いていた。
その傍に背の高い立派な男が立って、唱歌を唄っている。
その口が大変大きく見えた。
けれども二人は二人以外の事にはまるで頓着していない様子であっ た。
船に乗っている事さえ忘れているようであった。


 自分はますますつまらなくなった。
とうとう死ぬ事に決心した。
それである晩、あたりに人のいない時分、思い切って海の中へ飛び 込んだ。
ところが――自分の足が甲板を離れて、船と縁が切れたその刹那に 、急に命が惜しくなった。
心の底からよせばよかったと思った。
けれども、もう遅い。
自分は厭(いや)でも応でも海の中へ這入らなければならない。
ただ大変高くできていた船と見えて、身体は船を離れたけれども、 足は容易に水に着かない。
しかし捕まえるものがないから、しだいしだいに水に近づいて来る 。
いくら足を縮めても近づいて来る。
水の色は黒かった。


 そのうち船は例の通り黒い煙を吐いて、通り過ぎてしまった。
自分はどこへ行くんだか判らない船でも、やっぱり乗っている方が よかったと始めて悟りながら、しかもその悟りを利用する事ができ ずに、無限の後悔と恐怖とを抱いて黒い波の方へ静かに落ちて行っ た。

 

第八夜


 床屋の敷居を跨(また)いだら、白い着物を着てかたまっていた三 四人が、一度にいらっしゃいと云った。

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【ブンゴウメール】夢十夜 (19/29)

(669字。目安の読了時間:2分)

 


「落ちて行く日を追かけるようだから」

 船の男はからからと笑った。
そうして向うの方へ行ってしまった。


「西へ行く日の、果は東か。それは本真か。東出る日の、御里は西 か。それも本真か。身は波の上。枕。流せ流せ」と囃(はや) している。
舳(へさき)へ行って見たら、水夫が大勢寄って、太い帆綱を手繰 っていた。


 自分は大変心細くなった。
いつ陸へ上がれる事か分らない。
そうしてどこへ行くのだか知れない。
ただ黒い煙を吐いて波を切って行く事だけはたしかである。
その波はすこぶる広いものであった。
際限もなく蒼(あお)く見える。
時には紫にもなった。
ただ船の動く周囲だけはいつでも真白に泡を吹いていた。
自分は大変心細かった。
こんな船にいるよりいっそ身を投げて死んでしまおうかと思った。


 乗合はたくさんいた。
たいていは異人のようであった。
しかしいろいろな顔をしていた。
空が曇って船が揺れた時、一人の女が欄に倚(よ)りかかって、し きりに泣いていた。
眼を拭く手巾の色が白く見えた。
しかし身体には更紗のような洋服を着ていた。
この女を見た時に、悲しいのは自分ばかりではないのだと気がつい た。


 ある晩甲板の上に出て、一人で星を眺めていたら、一人の異人が来 て、天文学を知ってるかと尋ねた。
自分はつまらないから死のうとさえ思っている。
天文学などを知る必要がない。
黙っていた。
するとその異人が金牛宮の頂にある七星の話をして聞かせた。

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【ブンゴウメール】夢十夜 (18/29)

(727字。目安の読了時間:2分)

 


 道具箱から鑿(のみ)と金槌を持ち出して、裏へ出て見ると、せん だっての暴風で倒れた樫(かし)を、薪にするつもりで、木挽に挽 (ひ)かせた手頃な奴が、たくさん積んであった。


 自分は一番大きいのを選んで、勢いよく彫り始めて見たが、不幸に して、仁王は見当らなかった。
その次のにも運悪く掘り当てる事ができなかった。
三番目のにも仁王はいなかった。
自分は積んである薪を片っ端から彫って見たが、どれもこれも仁王 を蔵しているのはなかった。
ついに明治の木にはとうてい仁王は埋っていないものだと悟った。
それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った。

 

第七夜


 何でも大きな船に乗っている。


 この船が毎日毎夜すこしの絶間なく黒い煙を吐いて浪を切って進ん で行く。
凄じい音である。
けれどもどこへ行くんだか分らない。
ただ波の底から焼火箸のような太陽が出る。
それが高い帆柱の真上まで来てしばらく挂(かか)っているかと思 うと、いつの間にか大きな船を追い越して、先へ行ってしまう。
そうして、しまいには焼火箸のようにじゅっといってまた波の底に 沈んで行く。
そのたんびに蒼(あお)い波が遠くの向うで、蘇枋(すおう)の色 に沸き返る。
すると船は凄じい音を立ててその跡を追かけて行く。
けれども決して追つかない。


 ある時自分は、船の男を捕まえて聞いて見た。


「この船は西へ行くんですか」

 船の男は怪訝な顔をして、しばらく自分を見ていたが、やがて、

「なぜ」と問い返した。


「落ちて行く日を追かけるようだから」

 船の男はからからと笑った。

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【ブンゴウメール】夢十夜 (17/29)

(679字。目安の読了時間:2分)

天下の英雄はただ仁王と我れとあるのみと云う態度だ。天晴れだ」 と云って賞め出した。


 自分はこの言葉を面白いと思った。
それでちょっと若い男の方を見ると、若い男は、すかさず、

「あの鑿と槌の使い方を見たまえ。大自在の妙境に達している」と 云った。


 運慶は今太い眉を一寸の高さに横へ彫り抜いて、鑿の歯を竪(たて )に返すや否や斜すに、上から槌を打ち下した。
堅い木を一と刻みに削って、厚い木屑が槌の声に応じて飛んだと思 ったら、小鼻のおっ開いた怒り鼻の側面がたちまち浮き上がって来 た。
その刀の入れ方がいかにも無遠慮であった。
そうして少しも疑念を挾(さしはさ)んでおらんように見えた。


「よくああ無造作に鑿を使って、思うような眉や鼻ができるものだ な」と自分はあんまり感心したから独言のように言った。
するとさっきの若い男が、

「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が 木の中に埋っているのを、鑿(のみ)と槌(つち) の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなもの だからけっして間違うはずはない」と云った。


 自分はこの時始めて彫刻とはそんなものかと思い出した。
はたしてそうなら誰にでもできる事だと思い出した。
それで急に自分も仁王が彫ってみたくなったから見物をやめてさっ そく家へ帰った。


 道具箱から鑿(のみ)と金槌を持ち出して、裏へ出て見ると、せん だっての暴風で倒れた樫(かし)を、薪にするつもりで、木挽に挽 (ひ)かせた手頃な奴が、たくさん積んであった。

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【ブンゴウメール】夢十夜 (16/29)

(671字。目安の読了時間:2分)


辻待をして退屈だから立っているに相違ない。


「大きなもんだなあ」と云っている。


「人間を拵(こしら)えるよりもよっぽど骨が折れるだろう」とも 云っている。


 そうかと思うと、「へえ仁王だね。今でも仁王を彫るのかね。へえ そうかね。私ゃまた仁王はみんな古いのばかりかと思ってた」と云 った男がある。


「どうも強そうですね。なんだってえますぜ。昔から誰が強いって 、仁王ほど強い人あ無いって云いますぜ。何でも日本武尊よりも強 いんだってえからね」と話しかけた男もある。
この男は尻を端折って、帽子を被らずにいた。
よほど無教育な男と見える。


 運慶は見物人の評判には委細頓着なく鑿(のみ)と槌(つち)を動 かしている。
いっこう振り向きもしない。
高い所に乗って、仁王の顔の辺をしきりに彫り抜いて行く。


 運慶は頭に小さい烏帽子のようなものを乗せて、素袍だか何だかわ からない大きな袖を背中で括っている。
その様子がいかにも古くさい。
わいわい云ってる見物人とはまるで釣り合が取れないようである。
自分はどうして今時分まで運慶が生きているのかなと思った。
どうも不思議な事があるものだと考えながら、やはり立って見てい た。


 しかし運慶の方では不思議とも奇体ともとんと感じ得ない様子で一 生懸命に彫っている。
仰向いてこの態度を眺めていた一人の若い男が、自分の方を振り向 いて、

「さすがは運慶だな。眼中に我々なしだ。天下の英雄はただ仁王と 我れとあるのみと云う態度だ。

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【ブンゴウメール】夢十夜 (15/29)

(661字。目安の読了時間:2分)


女の髪は吹流しのように闇の中に尾を曳(ひ)いた。
それでもまだ篝(かがり)のある所まで来られない。


 すると真闇な道の傍で、たちまちこけこっこうという鶏の声がした 。
女は身を空様に、両手に握った手綱をうんと控えた。
馬は前足の蹄(ひづめ)を堅い岩の上に発矢と刻み込んだ。


 こけこっこうと鶏がまた一声鳴いた。


 女はあっと云って、緊めた手綱を一度に緩めた。
馬は諸膝を折る。
乗った人と共に真向へ前へのめった。
岩の下は深い淵(ふち)であった。


 蹄の跡はいまだに岩の上に残っている。
鶏の鳴く真似をしたものは天探女である。
この蹄の痕の岩に刻みつけられている間、天探女は自分の敵である 。

 

第六夜


 運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいると云う評判だから、散歩な がら行って見ると、自分より先にもう大勢集まって、しきりに下馬 評をやっていた。


 山門の前五六間の所には、大きな赤松があって、その幹が斜めに山 門の甍(いらか)を隠して、遠い青空まで伸びている。
松の緑と朱塗の門が互いに照り合ってみごとに見える。
その上松の位地が好い。
門の左の端を眼障にならないように、斜に切って行って、上になる ほど幅を広く屋根まで突出しているのが何となく古風である。
鎌倉時代とも思われる。


 ところが見ているものは、みんな自分と同じく、明治の人間である 。
その中でも車夫が一番多い。
辻待をして退屈だから立っているに相違ない。

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【ブンゴウメール】夢十夜 (14/29)

(651字。目安の読了時間:2分)

 


 その頃でも恋はあった。
自分は死ぬ前に一目思う女に逢(あ)いたいと云った。
大将は夜が開けて鶏が鳴くまでなら待つと云った。
鶏が鳴くまでに女をここへ呼ばなければならない。
鶏が鳴いても女が来なければ、自分は逢わずに殺されてしまう。


 大将は腰をかけたまま、篝火を眺めている。
自分は大きな藁沓(わらぐつ)を組み合わしたまま、草の上で女を 待っている。
夜はだんだん更ける。


 時々篝火が崩れる音がする。
崩れるたびに狼狽(うろた)えたように焔(ほのお)が大将になだ れかかる。
真黒な眉の下で、大将の眼がぴかぴかと光っている。
すると誰やら来て、新しい枝をたくさん火の中へ抛(な)げ込んで 行く。
しばらくすると、火がぱちぱちと鳴る。
暗闇を弾き返すような勇ましい音であった。


 この時女は、裏の楢(なら)の木に繋(つな)いである、白い馬を 引き出した。
鬣(たてがみ)を三度撫でて高い背にひらりと飛び乗った。
鞍(くら)もない鐙(あぶみ)もない裸馬であった。
長く白い足で、太腹を蹴ると、馬はいっさんに駆け出した。
誰かが篝りを継ぎ足したので、遠くの空が薄明るく見える。
馬はこの明るいものを目懸けて闇の中を飛んで来る。
鼻から火の柱のような息を二本出して飛んで来る。
それでも女は細い足でしきりなしに馬の腹を蹴っている。
馬は蹄(ひづめ)の音が宙で鳴るほど早く飛んで来る。
女の髪は吹流しのように闇の中に尾を曳(ひ)いた。

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