【ブンゴウメール】山月記 (1/15)
隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃(たの)むところ頗(すこぶ)る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。
いくばくもなく官を退いた後は、故山、※略(かくりゃく)に帰臥し、人と交を絶って、ひたすら詩作に耽(ふけ)った。
下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺そうとしたのである。
しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。
李徴は漸く焦躁に駆られて来た。
この頃からその容貌も峭刻となり、肉落ち骨秀で、眼光のみ徒らに炯々(けいけい)として、曾(かつ)て進士に登第した頃の豊頬の美少年の俤(おもかげ)は、何処に求めようもない。
数年の後、貧窮に堪えず、妻子の衣食のために遂に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになった。
一方、これは、己の詩業に半ば絶望したためでもある。
曾ての同輩は既に遥(はる)か高位に進み、彼が昔、鈍物として歯牙にもかけなかったその連中の下命を拝さねばならぬことが、往年の儁才李徴の自尊心を如何に傷けたかは、想像に難くない。
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【お知らせ】
2本立てでお送りする11月のブンゴウメール、後半は引き続き中島敦で『山月記』です。
教科書などで既読の方も多いと思いますが、久しぶりの再読にぜひどうぞ。
ちなみに前半でお送りした『文字禍』とこの『山月記』は、当初『古譚』の名で合わせて発表され、中島敦のデビュー作となったそうです。
なお本作にはシステムで表示できない外字がいくつか含まれているため、「※」で代替表記しています。青空文庫本体では画像化した漢字を表示しているので、気になる方はそちらでご確認ください。
それでは、後半もお楽しみください!
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【ブンゴウメール】文字禍 (15/15)
【ブンゴウメール】文字禍 (14/15)
【ブンゴウメール】文字禍 (13/15)
【ブンゴウメール】文字禍 (12/15)
【ブンゴウメール】文字禍 (12/15)
(519字。目安の読了時間:2分) 太古以来のアヌ・エンリルの書に書上げられていない星は、なにゆえに存在せぬか? それは、彼等がアヌ・エンリルの書に文字として載せられなかったからじゃ。 大マルズック星(木星)が天界の牧羊者(オリオン)の境を犯せば神々の怒が降るのも、月輪の上部に蝕(しょく)が現れればフモオル人が禍を蒙(こうむ)るのも、皆、古書に文字として誌されてあればこそじゃ。 古代スメリヤ人が馬という獣を知らなんだのも、彼等の間に馬という字が無かったからじゃ。 この文字の精霊の力ほど恐ろしいものは無い。 君やわしらが、文字を使って書きものをしとるなどと思ったら大間違い。 わしらこそ彼等文字の精霊にこき使われる下僕じゃ。 しかし、また、彼等精霊の齎(もたら)す害も随分ひどい。 わしは今それについて研究中だが、君が今、歴史を誌した文字に疑を感じるようになったのも、つまりは、君が文字に親しみ過ぎて、その霊の毒気に中ったためであろう。 若い歴史家は妙な顔をして帰って行った。 老博士はなおしばらく、文字の霊の害毒があの有為な青年をも害おうとしていることを悲しんだ。 文字に親しみ過ぎてかえって文字に疑を抱くことは、決して矛盾ではない。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! http://bit.ly/2Ss8sbS ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://ift.tt/2rbGjJX ■次に読みたい作品を教えてください!:https://ift.tt/2JPPM0l ■青空文庫でこの作品を読む:https://ift.tt/2qljumn ■運営へのご支援はこちら: https://ift.tt/2vkZ9jf メール配信の停止はこちら:https://goo.gl/forms/kVz3fE9HdDq5iuA03 (これより下部のメッセージはすべてシステムによって自動付与されたもので、現在機能しておりません。必ず上記のURLからご解約ください) ============================================== Unsubscribe bungomail-text@notsobad.jp from this list: https://ift.tt/2JUEx8n