よだかの星(2/9) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(614字。目安の読了時間:2分)
それによだかには、するどい爪もするどいくちばしもありませんでしたから、どんなに弱い鳥でも、よだかをこわがる筈はなかったのです。
それなら、たかという名のついたことは不思議なようですが、これは、一つはよだかのはねが無暗に強くて、風を切って翔けるときなどは、まるで鷹のように見えたことと、も一つはなきごえがするどくて、やはりどこか鷹に似ていた為です。
もちろん、鷹は、これをひじょうに気にかけて、いやがっていました。
それですから、よだかの顔さえ見ると、肩をいからせて、早く名前をあらためろ、名前をあらためろと、いうのでした。
ある夕方、とうとう、鷹がよだかのうちへやって参りました。
「おい。居るかい。まだお前は名前をかえないのか。ずいぶんお前も恥知らずだな。お前とおれでは、よっぽど人格がちがうんだよ。たとえばおれは、青いそらをどこまででも飛んで行く。おまえは、曇ってうすぐらい日か、夜でなくちゃ、出て来ない。それから、おれのくちばしやつめを見ろ。そして、よくお前のとくらべて見るがいい。」
「鷹さん。それはあんまり無理です。私の名前は私が勝手につけたのではありません。神さまから下さったのです。」
「いいや。おれの名なら、神さまから貰ったのだと云ってもよかろうが、お前のは、云わば、おれと夜と、両方から借りてあるんだ。さあ返せ。」
「鷹さん。それは無理です。」
「無理じゃない。おれがいい名を教えてやろう。市蔵というんだ。
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よだかの星(1/9) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(640字。目安の読了時間:2分)
よだかは、実にみにくい鳥です。
顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。
足は、まるでよぼよぼで、一間とも歩けません。
ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合でした。
たとえば、ひばりも、あまり美しい鳥ではありませんが、よだかよりは、ずっと上だと思っていましたので、夕方など、よだかにあうと、さもさもいやそうに、しんねりと目をつぶりながら、首をそっ方へ向けるのでした。
もっとちいさなおしゃべりの鳥などは、いつでもよだかのまっこうから悪口をしました。
「ヘン。又出て来たね。まあ、あのざまをごらん。ほんとうに、鳥の仲間のつらよごしだよ。」
「ね、まあ、あのくちのおおきいことさ。きっと、かえるの親類か何かなんだよ。」
こんな調子です。
おお、よだかでないただのたかならば、こんな生はんかのちいさい鳥は、もう名前を聞いただけでも、ぶるぶるふるえて、顔色を変えて、からだをちぢめて、木の葉のかげにでもかくれたでしょう。
ところが夜だかは、ほんとうは鷹の兄弟でも親類でもありませんでした。
かえって、よだかは、あの美しいかわせみや、鳥の中の宝石のような蜂すずめの兄さんでした。
蜂すずめは花の蜜をたべ、かわせみはお魚を食べ、夜だかは羽虫をとってたべるのでした。
それによだかには、するどい爪もするどいくちばしもありませんでしたから、どんなに弱い鳥でも、よだかをこわがる筈はなかったのです。
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どんぐりと山猫(11/11) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(586字。目安の読了時間:2分)
一升にたりなかつたら、めつきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」
別当は、さつきのどんぐりをますに入れて、はかつて叫びました。
「ちやうど一升あります。」
山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。
そこで山ねこは、大きく延びあがつて、めをつぶつて、半分あくびをしながら言ひました。
「よし、はやく馬車のしたくをしろ。」白い大きなきのこでこしらへた馬車が、ひつぱりだされました。
そしてなんだかねずみいろの、をかしな形の馬がついてゐます。
「さあ、おうちへお送りいたしませう。」山猫が言ひました。
二人は馬車にのり別当は、どんぐりのますを馬車のなかに入れました。
ひゆう、ぱちつ。
馬車は草地をはなれました。
木や藪がけむりのやうにぐらぐらゆれました。
一郎は黄金のどんぐりを見、やまねこはとぼけたかほつきで、遠くをみてゐました。
馬車が進むにしたがつて、どんぐりはだんだん光がうすくなつて、まもなく馬車がとまつたときは、あたりまへの茶いろのどんぐりに変つてゐました。
そして、山ねこの黄いろな陣羽織も、別当も、きのこの馬車も、一度に見えなくなつて、一郎はじぶんのうちの前に、どんぐりを入れたますを持つて立つてゐました。
それからあと、山ねこ拝といふはがきは、もうきませんでした。
やつぱり、出頭すべしと書いてもいゝと言へばよかつたと、一郎はときどき思ふのです。
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どんぐりと山猫(10/11) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(640字。目安の読了時間:2分)
これほどのひどい裁判を、まるで一分半でかたづけてくださいました。どうかこれからわたしの裁判所の、名誉判事になつてください。これからも、葉書が行つたら、どうか来てくださいませんか。そのたびにお礼はいたします。」
「承知しました。お礼なんかいりませんよ。」
「いゝえ、お礼はどうかとつてください。わたしのじんかくにかゝはりますから。そしてこれからは、葉書にかねた一郎どのと書いて、こちらを裁判所としますが、ようございますか。」
一郎が「えゝ、かまひません。」と申しますと、やまねこはまだなにか言ひたさうに、しばらくひげをひねつて、眼をぱちぱちさせてゐましたが、たうとう決心したらしく言ひ出しました。
「それから、はがきの文句ですが、これからは、用事これありに付き、明日出頭すべしと書いてどうでせう。」
一郎はわらつて言ひました。
「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方がいゝでせう。」
山猫は、どうも言ひやうがまづかつた、いかにも残念だといふふうに、しばらくひげをひねつたまゝ、下を向いてゐましたが、やつとあきらめて言ひました。
「それでは、文句はいままでのとほりにしませう。そこで今日のお礼ですが、あなたは黄金のどんぐり一升と、塩鮭のあたまと、どつちをおすきですか。」
「黄金のどんぐりがすきです。」
山猫は、鮭の頭でなくて、まあよかつたといふやうに、口早に馬車別当に云ひました。
「どんぐりを一升早くもつてこい。一升にたりなかつたら、めつきのどんぐりもまぜてこい。
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どんぐりと山猫(9/11) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(602字。目安の読了時間:2分)
あたまのとがつたものが……。」がやがやがやがや。
山ねこが叫びました。
「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ。」
別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らし、どんぐりはみんなしづまりました。
山猫が一郎にそつと申しました。
「このとほりです。どうしたらいゝでせう。」
一郎はわらつてこたへました。
「そんなら、かう言ひわたしたらいゝでせう。このなかでいちばんばかで、めちやくちやで、まるでなつてゐないやうなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」
山猫はなるほどといふふうにうなづいて、それからいかにも気取つて、繻子のきものの胸を開いて、黄いろの陣羽織をちよつと出してどんぐりどもに申しわたしました。
「よろしい。しづかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちやくちやで、てんでなつてゐなくて、あたまのつぶれたやうなやつが、いちばんえらいのだ。」
どんぐりは、しいんとしてしまひました。
それはそれはしいんとして、堅まつてしまひました。
そこで山猫は、黒い繻子の服をぬいで、額の汗をぬぐひながら、一郎の手をとりました。
別当も大よろこびで、五六ぺん、鞭をひゆうぱちつ、ひゆうぱちつ、ひゆうひゆうぱちつと鳴らしました。
やまねこが言ひました。
「どうもありがたうございました。これほどのひどい裁判を、まるで一分半でかたづけてくださいました。
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どんぐりと山猫(8/11) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(600字。目安の読了時間:2分)
「さうでないよ。わたしのはうがよほど大きいと、きのふも判事さんがおつしやつたぢやないか。」
「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなんだよ。」
「押しつこのえらいひとだよ。押しつこをしてきめるんだよ。」もうみんな、がやがやがやがや言つて、なにがなんだか、まるで蜂の巣をつゝついたやうで、わけがわからなくなりました。
そこでやまねこが叫びました。
「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ。」
別当がむちをひゆうぱちつとならしましたのでどんぐりどもは、やつとしづまりました。
やまねこは、ぴんとひげをひねつて言ひました。
「裁判ももうけふで三日目だぞ。いゝ加減に仲なほりしたらどうだ。」
すると、もうどんぐりどもが、くちぐちに云ひました。
「いえいえ、だめです。なんといつたつて、頭のとがつてゐるのがいちばんえらいのです。」
「いゝえ、ちがひます。まるいのがえらいのです。」
「さうでないよ。大きなことだよ。」がやがやがやがや、もうなにがなんだかわからなくなりました。
山猫が叫びました。
「だまれ、やかましい。こゝをなんと心得る。しづまれしづまれ。」
別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らしました。
山猫がひげをぴんとひねつて言ひました。
「裁判ももうけふで三日目だぞ。いゝ加減になかなほりをしたらどうだ。」
「いえ、いえ、だめです。あたまのとがつたものが……。」
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どんぐりと山猫(7/11) - ブンゴウメール
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(628字。目安の読了時間:2分)
やまねこは巻たばこを投げすてて、大いそぎで馬車別当にいひつけました。
馬車別当もたいへんあわてて、腰から大きな鎌をとりだして、ざつくざつくと、やまねこの前のとこの草を刈りました。
そこへ四方の草のなかから、どんぐりどもが、ぎらぎらひかつて、飛び出して、わあわあわあわあ言ひました。
馬車別当が、こんどは鈴をがらんがらんがらんがらんと振りました。
音はかやの森に、がらんがらんがらんがらんとひゞき、黄金のどんぐりどもは、すこししづかになりました。
見ると山ねこは、もういつか、黒い長い繻子の服を着て、勿体らしく、どんぐりどもの前にすわつてゐました。
まるで奈良のだいぶつさまにさんけいするみんなの絵のやうだと一郎はおもひました。
別当がこんどは、革鞭を二三べん、ひゆうぱちつ、ひゆう、ぱちつと鳴らしました。
空が青くすみわたり、どんぐりはぴかぴかしてじつにきれいでした。
「裁判ももう今日で三日目だぞ、いゝ加減になかなほりをしたらどうだ。」山ねこが、すこし心配さうに、それでもむりに威張つて言ひますと、どんぐりどもは口々に叫びました。
「いえいえ、だめです、なんといつたつて頭のとがつてるのがいちばんえらいんです。そしてわたしがいちばんとがつてゐます。」
「いゝえ、ちがひます。まるいのがえらいのです。いちばんまるいのはわたしです。」
「大きなことだよ。大きなのがいちばんえらいんだよ。わたしがいちばん大きいからわたしがえらいんだよ。」
「さうでないよ。
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