桜の森の満開の下(12/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(617字。目安の読了時間:2分)
いやよ、そんな手は、と女は男を払いのけて叱ります。
男は子供のように手をひっこめて、てれながら、黒髪にツヤが立ち、結ばれ、そして顔があらわれ、一つの美が描かれ生まれてくることを見果てぬ夢に思うのでした。
「こんなものがなア」
彼は模様のある櫛や飾のある笄をいじり廻しました。
それは彼が今迄は意味も値打もみとめることのできなかったものでしたが、今も尚、物と物との調和や関係、飾りという意味の批判はありません。
けれども魔力が分ります。
魔力は物のいのちでした。
物の中にもいのちがあります。
「お前がいじってはいけないよ。なぜ毎日きまったように手をだすのだろうね」
「不思議なものだなア」
「何が不思議なのさ」
「何がってこともないけどさ」
と男はてれました。
彼には驚きがありましたが、その対象は分らぬのです。
そして男に都を怖れる心が生れていました。
その怖れは恐怖ではなく、知らないということに対する羞恥と不安で、物知りが未知の事柄にいだく不安と羞恥に似ていました。
女が「都」というたびに彼の心は怯え戦きました。
けれども彼は目に見える何物も怖れたことがなかったので、怖れの心になじみがなく、羞じる心にも馴れていません。
そして彼は都に対して敵意だけをもちました。
何百何千の都からの旅人を襲ったが手に立つ者がなかったのだから、と彼は満足して考えました。
どんな過去を思いだしても、裏切られ傷けられる不安がありません。
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