桜の森の満開の下(27/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(637字。目安の読了時間:2分)
その訪れは唐突で乱暴で、今のさっき迄の苦しい思いが、もはや捉えがたい彼方へ距てられていました。
彼はこんなにやさしくはなかった昨日までの女のことも忘れました。
今と明日があるだけでした。
二人は直ちに出発しました。
ビッコの女は残すことにしました。
そして出発のとき、女はビッコの女に向って、じき帰ってくるから待っておいで、とひそかに言い残しました。
★
目の前に昔の山々の姿が現れました。
呼べば答えるようでした。
旧道をとることにしました。
その道はもう踏む人がなく、道の姿は消え失せて、ただの林、ただの山坂になっていました。
その道を行くと、桜の森の下を通ることになるのでした。
「背負っておくれ。こんな道のない山坂は私は歩くことができないよ」
「ああ、いいとも」
男は軽々と女を背負いました。
男は始めて女を得た日のことを思いだしました。
その日も彼は女を背負って峠のあちら側の山径を登ったのでした。
その日も幸せで一ぱいでしたが、今日の幸せはさらに豊かなものでした。
「はじめてお前に会った日もオンブして貰ったわね」
と、女も思いだして、言いました。
「俺もそれを思いだしていたのだぜ」
男は嬉しそうに笑いました。
「ほら、見えるだろう。あれがみんな俺の山だ。谷も木も鳥も雲まで俺の山さ。山はいいなあ。走ってみたくなるじゃないか。都ではそんなことはなかったからな」
「始めての日はオンブしてお前を走らせたものだったわね」
「ほんとだ。
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