猫町(4/16) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(754字。目安の読了時間:2分)
しかし時間の計算から、それが私の家の近所であること、徒歩で半時間位しか離れていないいつもの私の散歩区域、もしくはそのすぐ近い範囲にあることだけは、確実に疑いなく解っていた。
しかもそんな近いところに、今まで少しも人に知れずに、どうしてこんな町があったのだろう?
私は夢を見ているような気がした。
それが現実の町ではなくって、幻燈の幕に映った、影絵の町のように思われた。
だがその瞬間に、私の記憶と常識が回復した。
気が付いて見れば、それは私のよく知っている、近所の詰らない、ありふれた郊外の町なのである。
いつものように、四ツ辻にポストが立って、煙草屋には胃病の娘が坐っている。
そして店々の飾窓には、いつもの流行おくれの商品が、埃っぽく欠伸をして並んでいるし、珈琲店の軒には、田舎らしく造花のアーチが飾られている。
何もかも、すべて私が知っている通りの、いつもの退屈な町にすぎない。
一瞬間の中に、すっかり印象が変ってしまった。
そしてこの魔法のような不思議の変化は、単に私が道に迷って、方位を錯覚したことにだけ原因している。
いつも町の南はずれにあるポストが、反対の入口である北に見えた。
いつもは左側にある街路の町家が、逆に右側の方へ移ってしまった。
そしてただこの変化が、すべての町を珍しく新しい物に見せたのだった。
その時私は、未知の錯覚した町の中で、或る商店の看板を眺めていた。
その全く同じ看板の絵を、かつて何所かで見たことがあると思った。
そして記憶が回復された一瞬時に、すべての方角が逆転した。
すぐ今まで、左側にあった往来が右側になり、北に向って歩いた自分が、南に向って歩いていることを発見した。
その瞬間、磁石の針がくるりと廻って、東西南北の空間地位が、すっかり逆に変ってしまった。
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