猫町(8/16) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
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概して文化の程度が低く、原始民族のタブーと迷信に包まれているこの地方には、実際色々な伝説や口碑があり、今でもなお多数の人々は、真面目に信じているのである、現に私の宿の女中や、近所の村から湯治に来ている人たちは、一種の恐怖と嫌悪の感情とで、私に様々のことを話してくれた。
彼らの語るところによれば、或る部落の住民は犬神に憑かれており、或る部落の住民は猫神に憑かれている。
犬神に憑かれたものは肉ばかりを食い、猫神に憑かれたものは魚ばかり食って生活している。
そうした特異な部落を称して、この辺の人々は「憑き村」と呼び、一切の交際を避けて忌み嫌った。
「憑き村」の人々は、年に一度、月のない闇夜を選んで祭礼をする。
その祭の様子は、彼ら以外の普通の人には全く見えない。
稀れに見て来た人があっても、なぜか口をつぐんで話をしない。
彼らは特殊の魔力を有し、所因の解らぬ莫大の財産を隠している。
等々。
こうした話を聞かせた後で、人々はまた追加して言った。
現にこの種の部落の一つは、つい最近まで、この温泉場の附近にあった。
今ではさすがに解消して、住民は何所かへ散ってしまったけれども、おそらくやはり、何所かで秘密の集団生活を続けているにちがいない。
その疑いない証拠として、現に彼らのオクラ(魔神の正体)を見たという人があると。
こうした人々の談話の中には、農民一流の頑迷さが主張づけられていた。
否でも応でも、彼らは自己の迷信的恐怖と実在性とを、私に強制しようとするのであった。
だが私は、別のちがった興味でもって、人々の話を面白く傾聴していた。
日本の諸国にあるこの種の部落的タブーは、おそらく風俗習慣を異にした外国の移住民や帰化人やを、先祖の氏神にもつ者の子孫であろう。
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