猫町(16/16) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(671字。目安の読了時間:2分)
つまり通俗の常識で解説すれば、私はいわゆる「狐に化かされた」のであった。
3
私の物語は此所で終る。
だが私の不思議な疑問は、此所から新しく始まって来る。
支那の哲人荘子は、かつて夢に胡蝶となり、醒めて自ら怪しみ言った。
夢の胡蝶が自分であるか、今の自分が自分であるかと。
この一つの古い謎は、千古にわたってだれも解けない。
錯覚された宇宙は、狐に化かされた人が見るのか。
理智の常識する目が見るのか。
そもそも形而上の実在世界は、景色の裏側にあるのか表にあるのか。
だれもまた、おそらくこの謎を解答できない。
だがしかし、今もなお私の記憶に残っているものは、あの不可思議な人外の町。
窓にも、軒にも、往来にも、猫の姿がありありと映像していた、あの奇怪な猫町の光景である。
私の生きた知覚は、既に十数年を経た今日でさえも、なおその恐ろしい印象を再現して、まざまざとすぐ眼の前に、はっきり見ることができるのである。
人は私の物語を冷笑して、詩人の病的な錯覚であり、愚にもつかない妄想の幻影だと言う。
だが私は、たしかに猫ばかりの住んでる町、猫が人間の姿をして、街路に群集している町を見たのである。
理窟や議論はどうにもあれ、宇宙の或る何所かで、私がそれを「見た」ということほど、私にとって絶対不惑の事実はない。
あらゆる多くの人々の、あらゆる嘲笑の前に立って、私は今もなお固く心に信じている。
あの裏日本の伝説が口碑している特殊な部落。
猫の精霊ばかりの住んでる町が、確かに宇宙の或る何所かに、必らず実在しているにちがいないということを。
=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう!
■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404
■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000067/files/641_21647.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
メール配信の停止はこちら:https://goo.gl/forms/kVz3fE9HdDq5iuA03
-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Mail: info@notsobad.jp