猫町(15/16) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(679字。目安の読了時間:2分)
その時もはや、あの不可解な猫の姿は、私の視覚から消えてしまった。
町には何の異常もなく、窓はがらんとして口を開けていた。
往来には何事もなく、退屈の道路が白っちゃけてた。
猫のようなものの姿は、どこにも影さえ見えなかった。
そしてすっかり情態が一変していた。
町には平凡な商家が並び、どこの田舎にも見かけるような、疲れた埃っぽい人たちが、白昼の乾いた街を歩いていた。
あの蠱惑的な不思議な町はどこかまるで消えてしまって、骨牌の裏を返したように、すっかり別の世界が現れていた。
此所に現実している物は、普通の平凡な田舎町。
しかも私のよく知っている、いつものU町の姿ではないか。
そこにはいつもの理髪店が、客の来ない椅子を並べて、白昼の往来を眺めているし、さびれた町の左側には、売れない時計屋が欠伸をして、いつものように戸を閉めている。
すべては私が知ってる通りの、いつもの通りに変化のない、田舎の単調な町である。
意識が此所まではっきりした時、私は一切のことを了解した。
愚かにも私は、また例の知覚の疾病「三半規管の喪失」にかかったのである。
山で道を迷った時から、私はもはや方位の観念を失喪していた。
私は反対の方へ降りたつもりで、逆にまたU町へ戻って来たのだ。
しかもいつも下車する停車場とは、全くちがった方角から、町の中心へ迷い込んだ。
そこで私はすべての印象を反対に、磁石のあべこべの地位で眺め、上下四方前後左右の逆転した、第四次元の別の宇宙(景色の裏側)を見たのであった。
つまり通俗の常識で解説すれば、私はいわゆる「狐に化かされた」のであった。
=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう!
■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404
■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000067/files/641_21647.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
メール配信の停止はこちら:https://goo.gl/forms/kVz3fE9HdDq5iuA03
-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Mail: info@notsobad.jp