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僕の孤独癖について(2/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(690字。目安の読了時間:2分)

人目を忍び、露見を恐れ、絶えずびくびくとして逃げ廻つてゐる犯罪者の心理は、早く既に、子供の時の僕が経験して居た。

その上僕は神経質であつた。

恐怖観念が非常に強く、何でもないことがひどく怖かつた。

幼年時代には、壁に映る時計や箒の影を見てさへ引きつけるほどに恐ろしかつた。

家人はそれを面白がり、僕によく悪戯をしてからかつた。

或る時、女中が杓文字の影を壁に映した。

僕はそれを見て卒倒し、二日間も発熱して臥てしまつた。

幼年時代はすべての世界が恐ろしく、魑魅妖怪に満たされて居た。

 青年時代になつてからも、色々恐ろしい幻覚に悩まされた。

特に強迫観念が烈しかつた。

門を出る時、いつも左の足からでないと踏み出さなかつた。

四ツ角を曲る時は、いつも三遍宛ぐるぐる廻つた。

そんな馬鹿馬鹿しい詰らぬことが、僕には強迫的の絶対命令だつた。

だが一番困つたのは、意識の反対衝動に駆られることだつた。

例へば町へ行かうとして家を出る時、逆に森へ行けといふ強迫命令が起つて来る。

するといつのまにか、僕の足はその命令を遵奉して、反対の森の方へ行つてるのである。

最も苦しいのは、これが友人との交際に於て出る場合である。

例へば僕は目前に居る一人の男を愛してゐる。

僕の心の中では、固くその人物と握手をし、「私の愛する親友!」と言はうとして居る。

然るにその瞬間、不意に例の反対衝動が起つて来る。

そして逆に、「この馬鹿野郎!」と罵る言葉が、不意に口をついて出て来るのである。

しかもこの衝動は、避けがたく押へることが出来ないのである。

 この不思議な厭な病気ほど、僕を苦しめたものはない。

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