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僕の孤独癖について(3/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(686字。目安の読了時間:2分)

 この不思議な厭な病気ほど、僕を苦しめたものはない。

僕は二十八歳の時に、初めてドストイェフスキイの小説「白痴」をよんで吃驚した。

といふのは、その小説の主人公である白痴の貴族が、丁度その僕と同じ精神変質者であつたからだ。

白痴の主人公は、愛情の昂奮に駆られた時、不意に対手の頭を擲らうとする衝動が起り、押へることが出来ないで苦しむのである。

それを初めて読んだ時、まさしくこれは僕のことを書いたのだと思つたほどだ。

僕は少年時代に黒岩涙香やコナン・ドイルの探偵小説を愛読し、やや長じて後は、主としてポオとドストイェフスキイを愛読したが、つまり僕の遺伝的な天性気質が、かうした作家たちの変質性に類似を見付けた為なのだらう。

 それはとにかく、これが僕を人嫌ひにし、非社交的の人間にしたことの、一つの最も大きな原因だつた。

僕は人の前に出る毎に、この反対衝動の発作が恐ろしく、それの心配と制止観念とで、休む間もなく心を疲らし、気を張りきつて居らねばならぬ。

その苦しさと苛たしさとは、到底筆紙に説明することが出来ないのである。

しかも表面はさりげなく、普通に会話して居なければならないのである。

この忌々しい病気の為に、過去に僕は幾人かの友人を無くしてしまひ、愛する人を意外の敵に廻してしまつた。

特に深く交際のない人には、一層発作が出易く危険なので、自然こちらから交際を避け、つとめて会はないやうにして来たのである。

 僕の天性の我がまま気儘も、これにまた輪をかけて自分を洞窟の仙人にした。

人と人との交際といふことは、所詮相互の自己抑制と、利害の妥協関係の上に成立する。

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