どんぐりと山猫(3/11) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
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まあもすこし行つてみよう。きのこ、ありがたう。」
きのこはみんないそがしさうに、どつてこどつてこと、あのへんな楽隊をつづけました。
一郎はまたすこし行きました。
すると一本のくるみの木の梢を、栗鼠がぴよんととんでゐました。
一郎はすぐ手まねぎしてそれをとめて、
「おい、りす、やまねこがここを通らなかつたかい。」とたづねました。
するとりすは、木の上から、額に手をかざして、一郎を見ながらこたへました。
「やまねこなら、けさまだくらいうちに馬車でみなみの方へ飛んで行きましたよ。」
「みなみへ行つたなんて、二とこでそんなことを言ふのはをかしいなあ。けれどもまあもすこし行つてみよう。りす、ありがたう。」りすはもう居ませんでした。
たゞくるみのいちばん上の枝がゆれ、となりのぶなの葉がちらつとひかつただけでした。
一郎がすこし行きましたら、谷川にそつたみちは、もう細くなつて消えてしまひました。
そして谷川の南の、まつ黒な榧の木の森の方へ、あたらしいちひさなみちがついてゐました。
一郎はそのみちをのぼつて行きました。
榧の枝はまつくろに重なりあつて、青ぞらは一きれも見えず、みちは大へん急な坂になりました。
一郎が顔をまつかにして、汗をぽとぽとおとしながら、その坂をのぼりますと、にはかにぱつと明るくなつて、眼がちくつとしました。
そこはうつくしい黄金いろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まはりは立派なオリーヴいろのかやの木のもりでかこまれてありました。
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