老妓抄(20/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(613字。目安の読了時間:2分)
「あの子も、おつな真似をすることを、ちょんぼり覚えたね」
柚木にはだんだん老妓のすることが判らなくなった。
むかしの男たちへの罪滅しのために若いものの世話でもして気を取直すつもりかと思っていたが、そうでもない。
近頃この界隈に噂が立ちかけて来た、老妓の若い燕というそんな気配はもちろん、老妓は自分に対して現わさない。
何で一人前の男をこんな放胆な飼い方をするのだろう。
柚木は近頃工房へは少しも入らず、発明の工夫も断念した形になっている。
そして、そのことを老妓はとくに知っている癖に、それに就いては一言も云わないだけに、いよいよパトロンの目的が疑われて来た。
縁側に向いている硝子窓から、工房の中が見えるのを、なるべく眼を外らして、縁側に出て仰向けに寝転ぶ。
夏近くなって庭の古木は青葉を一せいにつけ、池を埋めた渚の残り石から、いちはつやつつじの花が虻を呼んでいる。
空は凝って青く澄み、大陸のような雲が少し雨気で色を濁しながらゆるゆる移って行く。
隣の乾物の陰に桐の花が咲いている。
柚木は過去にいろいろの家に仕事のために出入りして、醤油樽の黴臭い戸棚の隅に首を突込んで窮屈な仕事をしたことや、主婦や女中に昼の煮物を分けて貰って弁当を使ったことや、その頃は嫌だった事が今ではむしろなつかしく想い出される。
蒔田の狭い二階で、注文先からの設計の予算表を造っていると、子供が代る代る来て、頸筋が赤く腫れるほど取りついた。
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