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【ブンゴウメール】夢十夜 (29/29)

(631字。目安の読了時間:2分)


庄太郎はやむをえずまた洋杖を振り上げた。
豚はぐうと鳴いてまた真逆様に穴の底へ転げ込んだ。
するとまた一匹あらわれた。
この時庄太郎はふと気がついて、向うを見ると、遥(はるか)の青 草原の尽きる辺から幾万匹か数え切れぬ豚が、群をなして一直線に 、この絶壁の上に立っている庄太郎を目懸けて鼻を鳴らしてくる。
庄太郎は心から恐縮した。
けれども仕方がないから、近寄ってくる豚の鼻頭を、一つ一つ丁寧 に檳榔樹の洋杖で打っていた。
不思議な事に洋杖が鼻へ触りさえすれば豚はころりと谷の底へ落ち て行く。
覗(のぞ)いて見ると底の見えない絶壁を、逆さになった豚が行列 して落ちて行く。
自分がこのくらい多くの豚を谷へ落したかと思うと、庄太郎は我な がら怖くなった。
けれども豚は続々くる。
黒雲に足が生えて、青草を踏み分けるような勢いで無尽蔵に鼻を鳴 らしてくる。


 庄太郎は必死の勇をふるって、豚の鼻頭を七日六晩叩(たた)いた 。
けれども、とうとう精根が尽きて、手が蒟蒻(こんにゃく)のよう に弱って、しまいに豚に舐(な)められてしまった。
そうして絶壁の上へ倒れた。


 健さんは、庄太郎の話をここまでして、だからあんまり女を見るの は善くないよと云った。
自分ももっともだと思った。
けれども健さんは庄太郎のパナマの帽子が貰いたいと云っていた。


 庄太郎は助かるまい。
パナマは健さんのものだろう。

 

 

 

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