【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (17/31)
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高さが四十六間と申しますから、半丁の余で、八角型の頂上が、唐人の帽子みたいに、とんがっていて、ちょっと高台へ昇りさえすれば、東京中どこからでも、その赤いお化が見られたものです。
今も申す通り、明治二十八年の春、兄がこの遠眼鏡を手に入れて間もない頃でした。
兄の身に妙なことが起って参りました。
親爺なんぞ、兄め気でも違うのじゃないかって、ひどく心配して居りましたが、私もね、お察しでしょうが、馬鹿に兄思いでしてね、兄の変てこれんなそぶりが、心配で心配でたまらなかったものです。
どんな風かと申しますと、兄はご飯もろくろくたべないで、家内の者とも口を利かず、家にいる時は一間にとじ籠って考え事ばかりしている。
身体は痩せてしまい、顔は肺病やみの様に土気色で、目ばかりギョロギョロさせている。
尤(もっと)も平常から顔色のいい方じゃあござんせんでしたがね。
それが一倍青ざめて、沈んでいるのですから、本当に気の毒な様でした。
その癖ね、そんなでいて、毎日欠かさず、まるで勤めにでも出る様に、おひるッから、日暮れ時分まで、フラフラとどっかへ出掛けるんです。
どこへ行くのかって、聞いて見ても、ちっとも云いません。
母親が心配して、兄のふさいでいる訳を、手を変え品を変え尋ねても、少しも打開けません。
そんなことが一月程も続いたのですよ。
あんまり心配だものだから、私はある日、兄が一体どこへ出掛るのかと、ソッとあとをつけました。
そうする様に、母親が私に頼むもんですからね。
兄はその日も、丁度今日の様などんよりとした、いやな日でござんしたが、おひる過から、その頃兄の工風で仕立てさせた、当時としては飛び切りハイカラな、黒天鵞絨の洋服を着ましてね、この遠眼鏡を肩から下げ、ヒョロヒョロと、日本橋通りの、馬車鉄道の方へ歩いて行くのです。
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