ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (17/31)

(790字。目安の読了時間:2分) 高さが四十六間と申しますから、半丁の余で、八角型の頂上が、唐人の帽子みたいに、とんがっていて、ちょっと高台へ昇りさえすれば、東京中どこからでも、その赤いお化が見られたものです。  今も申す通り、明治二十八年の春、兄がこの遠眼鏡を手に入れて間もない頃でした。 兄の身に妙なことが起って参りました。 親爺なんぞ、兄め気でも違うのじゃないかって、ひどく心配して居りましたが、私もね、お察しでしょうが、馬鹿に兄思いでしてね、兄の変てこれんなそぶりが、心配で心配でたまらなかったものです。 どんな風かと申しますと、兄はご飯もろくろくたべないで、家内の者とも口を利かず、家にいる時は一間にとじ籠って考え事ばかりしている。 身体は痩せてしまい、顔は肺病やみの様に土気色で、目ばかりギョロギョロさせている。 尤(もっと)も平常から顔色のいい方じゃあござんせんでしたがね。 それが一倍青ざめて、沈んでいるのですから、本当に気の毒な様でした。 その癖ね、そんなでいて、毎日欠かさず、まるで勤めにでも出る様に、おひるッから、日暮れ時分まで、フラフラとどっかへ出掛けるんです。 どこへ行くのかって、聞いて見ても、ちっとも云いません。 母親が心配して、兄のふさいでいる訳を、手を変え品を変え尋ねても、少しも打開けません。 そんなことが一月程も続いたのですよ。  あんまり心配だものだから、私はある日、兄が一体どこへ出掛るのかと、ソッとあとをつけました。 そうする様に、母親が私に頼むもんですからね。 兄はその日も、丁度今日の様などんよりとした、いやな日でござんしたが、おひる過から、その頃兄の工風で仕立てさせた、当時としては飛び切りハイカラな、黒天鵞絨の洋服を着ましてね、この遠眼鏡を肩から下げ、ヒョロヒョロと、日本橋通りの、馬車鉄道の方へ歩いて行くのです。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/me2p48 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] 無料で50分英会話レッスンが受講できる人気のアプリ「レアジョブ英会話」 ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/i56Kg6 ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*