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桜の森の満開の下(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール

(622字。目安の読了時間:2分)

女はよろこんで机にのせ酒をふくませ頬ずりして舐めたりくすぐったりしましたが、じきあきました。

「もっと太った憎たらしい首よ」

 女は命じました。

男は面倒になって五ツほどブラさげて来ました。

ヨボヨボの老僧の首も、眉の太い頬っぺたの厚い、蛙がしがみついているような鼻の形の顔もありました。

耳のとがった馬のような坊主の首も、ひどく神妙な首の坊主もあります。

けれども女の気に入ったのは一つでした。

それは五十ぐらいの大坊主の首で、ブ男で目尻がたれ、頬がたるみ、唇が厚くて、その重さで口があいているようなだらしのない首でした。

女はたれた目尻の両端を両手の指の先で押えて、クリクリと吊りあげて廻したり、獅子鼻の孔へ二本の棒をさしこんだり、逆さに立ててころがしたり、だきしめて自分のお乳を厚い唇の間へ押しこんでシャブらせたりして大笑いしました。

けれどもじきにあきました。

 美しい娘の首がありました。

清らかな静かな高貴な首でした。

子供っぽくて、そのくせ死んだ顔ですから妙に大人びた憂いがあり、閉じられたマブタの奥に楽しい思いも悲しい思いもマセた思いも一度にゴッちゃに隠されているようでした。

女はその首を自分の娘か妹のように可愛がりました。

黒い髪の毛をすいてやり、顔にお化粧してやりました。

ああでもない、こうでもないと念を入れて、花の香りのむらだつようなやさしい顔が浮きあがりました。

 娘の首のために、一人の若い貴公子の首が必要でした。

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