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犬を連れた奥さん(2/30) - ブンゴウメール

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(752字。目安の読了時間:2分)

いっぽう彼の方では、心ひそかに妻のことを、浅薄で料簡の狭い野暮な奴だと思って、煙たがって家に居つかなかった。

ほかに女を拵えだしたのももう大分前からのことで、それも相当たび重なっていた。

多分そのせいだったろうが、女のことになるとまず極まって悪く言っていたし、自分のいる席で女の話が出ようものなら、こんなふうに評し去るのが常だった。

――

「低級な人種ですよ!」

 さんざ苦い経験を積まさせられたのだから、今じゃ女を何と呼ぼうといっこう差支えない気でいるのだったが、その実この『低級な人種』なしには、二日と生きて行けない始末だった。

男同士の仲間だと、退屈で気づまりで、ろくろく口もきかずに冷淡に構えているが、いったん女の仲間にはいるが早いかのびのびと解放された感じで、話題の選択から仕草物腰に至るまで、実に心得たものであった。

いやそれのみか、相手が女なら黙っていてさえ気が楽だった。

いったい彼の風貌や性格には、つまり押しなべて彼の生まれつきには、何かしら捕捉しがたい魅力があって、それが女の気を惹いたり、女を誘い寄せたりするのだった。

彼もそれは承知の上だったが、いっぽう彼の方でもやはり、何かの力に牽かれて女の方へおびき寄せられるのであった。

 いったい男女の関係というものは、初めのうちこそ生活の単調を小気味よく破ってくれもし、ほんのちょいとした微笑ましいエピソードぐらいに見えるけれど、まっとうな人間――ことにそれが優柔不断な思い切りの悪いモスクヴァ人の場合だと、否が応でもだんだんに厄介千万な一大問題に変わって来て、とどのつまりは何とも身動きのならぬ状態に陥ってしまうものである。

といった事情は、たび重なる経験のおかげで、それも全くもって苦い経験のおかげで、彼はとうの昔に知り抜いていた。

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