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僕の孤独癖について(7/8) - ブンゴウメール

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(746字。目安の読了時間:2分)

僕は一体話題のすくない人間であり、自己の狭い主観的興味に属すること以外、一切話することの出来ない質の人間だから、先方で話題を持ちかけて来ない以上は、幾時間でも黙つてゐる外はない。

だから客の方で黙つてゐると、結局眦み合つてしまふ。

そしてこの眦み合ひが苦しいのだ。

かうした長尻の客との対坐は、僕にとつてまさしく拷問の呵責である。

 しかし僕の孤独癖は、最近になつてよほど明るく変化して来た。

第一に身体が昔より丈夫になり、神経が少し図太く鈍つて来た。

青年時代に、僕をひどく苦しめた病的感覚や強迫観念が、年と共に次第に程度を弱めて来た。

今では多人数の会へ出ても、不意に人の頭をなぐつたり、毒づいたりしようとするところの、衝動的な強迫観念に悩まされることが稀れになつた。

したがつて人との応接が楽になり、朗らかな気持で談笑することが出来てきた。

そして一般に、生活の気持がゆつたりと楽になつて来た。

だがその代りに、詩は年齢と共に拙くなつて来た。

つまり僕は、次第に世俗の平凡人に変化しつつあるのである。

これは僕にとつて、嘆くべきことか祝福すべきことか解らない。

 その上にまた、最近家庭の事情も変化した。

僕は数年前に妻と離別し、同時にまた父を失つてしまつた。

後には子供と母とが残つてるが、とにかく僕の生活は、昔に比して甚だ自由で伸々して来た。

すくなくとも家庭上の煩ひなどから、絶えず苛々して居た古い気分が一掃されて来た。

今の新しい僕は、むしろ親しい友人との集会なども、進んで求めるやうにさへ明るくなつてる。

来訪客と話すことも、昔のやうに苦しくなく、時に却つて歓迎するほどでさへもある。

ニイチェは読書を「休息」だと言つたが、今の僕にとつて、交際はたしかに一つの「休息」である。

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