老妓抄(23/30) - ブンゴウメール
ブンゴウメール
(583字。目安の読了時間:2分)
それでは自分の一生も案外小ぢんまりした平凡に規定されてしまう寂寞の感じはあったが、しかし、また何かそうなってみての上のことでなければ判らない不明な珍らしい未来の想像が、現在の自分の心情を牽きつけた。
柚木は額を小さく見せるまでたわわに前髪や鬢を張り出した中に整い過ぎたほど型通りの美しい娘に化粧したみち子の小さい顔に、もっと自分を夢中にさせる魅力を見出したくなった。
「もう一ぺんこっちを向いてご覧よ、とても似合うから」
みち子は右肩を一つ揺ったが、すぐくるりと向き直って、ちょっと手を胸と鬢へやって掻い繕った。
「うるさいのね、さあ、これでいいの」彼女は柚木が本気に自分を見入っているのに満足しながら、薬玉の簪の垂れをピラピラさせて云った。
「ご馳走を持って来てやったのよ。当ててご覧なさい」
柚木はこんな小娘に嬲られる甘さが自分に見透かされたのかと、心外に思いながら
「当てるの面倒臭い。持って来たのなら、早く出し給え」と云った。
みち子は柚木の権柄ずくにたちまち反抗心を起して「人が親切に持って来てやったのを、そんなに威張るのなら、もうやらないわよ」と横向きになった。
「出せ」と云って柚木は立上った。
彼は自分でも、自分が今、しかかる素振りに驚きつつ、彼は権威者のように「出せと云ったら、出さないか」と体を嵩張らせて、のそのそとみち子に向って行った。
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