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幸福への意志(9/30)

(579字。目安の読了時間:2分)

 令嬢はすらりとした姿の、しかし年の割には成熟した輪郭を持った人で、きわめて柔かな、ほとんどものうげな身のこなしを見ると、そんなに若い娘さんとはちょっと思えないほどであった。
こめかみを覆いながら、二つの捲毛になって、額まで出ている髪の毛は、つややかな黒で、顔色のほの白さとくっきり映り合っている。
顔にはゆたかな、濡れた唇と分厚な鼻と巴旦杏形の黒い眼と、その眼の上に弓なりにかかっている濃い柔かい眉とがあるので、彼女に少くともある程度まで、ユダヤ種のあることは疑う余地がなかったけれど、しかしその顔は実に異常な美しさを持っていた。
「あら――お客様なの。」と僕等を数歩立ち迎えながら、令嬢は問うた。
少しふくみ声である。
なおよく見ようとするつもりか、片手を額にかざすとともに、片手を壁際にあるグランド・ピアノの上に突いた。
「それにまあ、大変嬉しいお客様のようね――」と令嬢は同じ語調で、今はじめて僕の友だちを、それと認めたかのようにつけ加えた。
それから僕のほうへ、問うような一瞥を投げた。
 パオロは令嬢のそばへ歩み寄ると、えりぬきの享楽に身を任せる人の、ほとんど眠たそうなゆるやかさをもって、さし伸べられた令嬢の手の上へ、無言のまま身をかがめた。
「お嬢さん。」と、やがて彼はいった。
「失礼ですが、私の友だちを紹介いたします。

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