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幸福への意志(20/30)

(546字。目安の読了時間:2分)

 僕が黙っているので、彼はこうつけ加えた。
「五年以来だからな――とてもやりきれやしないよ。」
 僕等は今まで両方で避けていた点に到達したのである。
その時はじまった沈黙で、二人とも困りきっているのがよくわかった。
――彼はビロオドのクッションに背をもたせたまま、大きな燈架を見上げていた。
やがて不意にいった。
「それよりも――ねえ君、許してくれるだろうね、僕がこんなに長い間、なんにもたよりをしなかったのを……それはわかってくれるね。」
「わかっているとも。」
「僕のミュンヘンの事件は知っているんだろう。」と、彼はじゃけんなくらいの口調でさらにつづけた。
「この上なく完全に知っている。それにね、僕は今までずっと、君への伝言を持ち廻っていたんだぜ。ある婦人からの伝言をね。」
 彼のものうげな眼が、ぱっと燃え上った。
が、しばらくすると、前と同じうるおいのない鋭い調子で、彼はいった。
「新しいことかどうか、まあ聞かせて見たまえ。」
「新しいとはいえないな。君が前に、その人から直接聞いたことのたしかめにすぎないんだ……」
 そういって僕は、大勢の客がしゃべったり、手まねをしたりしているただなかで、あの夕方男爵令嬢が僕に語った言葉を、彼のために繰り返した。

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