ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

幸福への意志(19/30)

(573字。目安の読了時間:2分)

 そして彼は、僕と並んで一杯のソルベットオをすすりながら、この年月どう暮していたかを、物語りはじめた。
――旅をして、たえず旅をして暮していたのだという。
チロオルの山々をへめぐって、イタリアの中を端から端まで、ゆっくり行きつくして、シシリアからアフリカへ渡ったという。
そしてアルジイルやチュニスやエジプトの話をした。
「しまいにしばらくドイツにいたよ。」と、彼はいった。
「カルルスルウエにね。両親がぜひ逢いたいっていったのさ。それからまた立つ時も、いやがってなかなか立たせてくれなかったっけ。イタリアに来てから、もう三カ月ばかりになる。どうも南国にいると、気が落ち着くんだね。ロオマはひどく気に入ったよ。」
 僕はまだ一言も、彼のからだの工合を尋ねなかった。
で、この時こういった。
「そうしてみると、君の健康はずっと快復したと思っていいわけだね。」
 一瞬間、僕の顔をいぶかるように眺めた後、彼はこう答えた。
「というのは、僕がこうやって、元気に歩き廻っているからという意味かい。なに、ほんとをいうとね、歩き廻るのはごく当然な要求なんだよ。だってどうすればいいんだ。酒も煙草も恋も禁じられてしまったんだもの――なにか麻酔剤がなくちゃ、やりきれないじゃないか。そうだろう。」
 僕が黙っているので、彼はこうつけ加えた。

=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 
https://bit.ly/3cykT1L

Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001758/files/55967_56079.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
■月末まで一時的に配信を停止: https://bungomail.com/unsubscribe

-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Web: https://bungomail.com
配信停止:https://bungomail.com/unsubscribe