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幸福への意志(14/30)

(615字。目安の読了時間:2分)

 おや、あなた御存じないのですか――ホフマンは出立してしまったのですよ。あなたには知らせたろうと思っていましたが。」
「なに、一言半句知らせはしません。」
「じゃまったく ※ b※ton rompu(気まぐれ)なんですね……いわゆる芸術家気分というやつですか……それでは明日の午後に――」
 そういったなり、男爵は馬を進めて、あっけに取られた僕を取り残して、行ってしまった。
 僕はパオロの住居へと急いだ。
――はあ、お気の毒ですが、ホフマンさんはお立ちになりました。
所書は残していらっしゃいませんでした。
というわけである。
 男爵が「芸術家気分」なんということ以上に、深く知っているのは明らかであった。
彼の娘自身が、僕のはじめからきっとそうだろうと察していたことを、たしかめてくれた。
 それはみんなの企てた、そして僕も誘われた、イイザルの谷への散策の時に、起ったことだった。
みんなは午後になってから、ようやく出発した。
そしてもう晩方になったその帰り道で、男爵令嬢と僕とは、偶然にも最後の一組として、一行のあとについて行った。
 令嬢の様子には、パオロが姿を消してからも、なにひとつ変ったところは見えなかった。
完全にいつもの平静を保っていて、両親のほうはパオロの急な旅立ちについて、しきりに遺憾の意を述べたのに、彼女はその時まで、まだ一言も僕の友だちのことを、言い出したことがなかったのである。

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