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科学の不思議(29/30)

(880字。目安の読了時間:2分)

木虱は、卵を産むといふ非常にのろいやり方をしないで、生きた木虱其者を産むのだ。
どの木虱も皆んな、絶対的に皆んな、二週間程育つと、もう其の子を産み初めるのだ。
それは木虱のゐる季節の間ずつと、云ひ換へれば、一年のうちの少くとも半分の間は、繰り返す。
そして此の一と季節の世代の数は、十二以上にもなる。
先づ一匹の木虱が十匹を産むとする。
これでは実際の数よりも少ないのだが。
其の最初の一匹から生れた十匹の木虱がそれ/″\十匹づつ産むと、それで一匹がみんなで百匹つくる事になる。
其の百匹がめいめいに十匹産むと、みんなで千匹になり、その千匹がそれ/″\十匹づつ産むとみんなで一万匹になる。
さういふ風に十を十一度掛けて行く。
さあ、丁度坊さんの小麦の粒とおなじ計算だ。
坊さんの計算の時には二を掛けて行つて恐く程の速さで大きな数字になつて行つた。
が、木虱の家族の増えるのは、十を掛けて行くのだから、其の増えるのはもつと/\早い。
尤も坊さんの時には六十四度もかけて行つたのだが、こんどは十二度に過ぎない。
しかしそんな事はどうでもいゝ。
とにかく其の結果はお前達をぼんやりさせてしまふ程になるだらう。
それは千億万にもなるのだ。
一疋の鱈の卵を一つ一つ計算するのには一年近くもかゝる。
が、一匹の木虱から六ヶ月の間にふえる木虱を計算するには一万年もかゝるだらう! いくら大食共だつて、此の木虱をどうして食ひ尽せるだらう? 今此の接骨木の枝にびつしりとくつついてゐる木虱がそんなに殖えたら、どんな広さの処をも覆ふてしまふだらうか考へられるかね。』
『きつと、うちのお庭くらゐの広い処に一ぱいになるでせう。』とクレエルが云ひ出しました。
『もつと広い。
此の庭は長さが百メエトル幅も同じ位だ。
此の木虱の家族は、此の庭の十倍もの広さのところに一ぱいになるのだ。
どうだい? 放つておけば、一寸の間に世界中に蔓(ひろが)るかもしれない此の木虱を、あの金色の眼の蜻蛉や、小さい瓢虫や、いろんな雛鳥が食ひ尽してしまへようか。

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