【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (16/30)
(636字。目安の読了時間:2分)
「尾の道の町に、何か力があっとじゃろ、大阪までも行かいでよかった」
「大阪まで行っとれば、ほんのこて今頃は苦労しよっとじゃろ」
この頃、父も母も、少し肥えたかのように、私の眼にうつった。
私は毎日いっぱい飯を食った。
嬉しい日が続いた。
「腹が固うなるほど、食うちょれ、まんまさえ食うちょりゃ、心配なか」
「のう――おッ母さん! 階下のおばさんたち、飯食うちょるじゃろか?」
「どうして? 食うちょらな動けんがの」
「ほんでも、昨夜な、便所へはいっちょったら、おじさんが、おばさんに、俥も持って行かせ、俺はこのまま死んだ方がまし、云うてな、泣きよんなはった」
「ほうかや! あの俥も金貸しにばし、取られなはったとじゃろ」
「親類は、あっとじゃろか、飯食いなはるとこ、見たことなか」
「そぎゃんこツ云うもんじゃなかッ、階下のおじさんな、若い時船へ乗りよんなはって、機械で足ば折んなはったとオ、誰っちゃ見てくれんけん、おばさんが昆布巻きするきりで、食うて行きなはるとだい、可哀そうだろうがや」
「警察へ行っても駄目かや?」
「誰もそんな事知らんと云うて、皆、笑いまくるぞ」
「そんでも、悪いこつすれば怒るだろう?」
「誰がや?」
「人の足折って、知らん顔しちょるもんがよオ」
「金を持っちょるけに、かなわんたい」
「階下のおじさんな、馬鹿たれか?」
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