ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

桜の森の満開の下(30/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (557字。目安の読了時間:2分) 彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。 いつまでもそこに坐っていることができます。 彼はもう帰るところがないのですから。 桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。 あるいは「孤独」とい…

桜の森の満開の下(29/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (603字。目安の読了時間:2分) 全身の力をこめて鬼の手をゆるめました。 その手の隙間から首をぬくと、背中をすべって、どさりと鬼は落ちました。 今度は彼が鬼に組みつく番でした。 鬼の首をしめました。 そして彼がふと気付いたとき、彼…

桜の森の満開の下(28/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (592字。目安の読了時間:2分) 都ではそんなことはなかったからな」 「始めての日はオンブしてお前を走らせたものだったわね」 「ほんとだ。ずいぶん疲れて、目がまわったものさ」 男は桜の森の花ざかりを忘れてはいませんでした。 然し、…

桜の森の満開の下(27/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (637字。目安の読了時間:2分) その訪れは唐突で乱暴で、今のさっき迄の苦しい思いが、もはや捉えがたい彼方へ距てられていました。 彼はこんなにやさしくはなかった昨日までの女のことも忘れました。 今と明日があるだけでした。 二人は直…

桜の森の満開の下(26/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (604字。目安の読了時間:2分) 「だってお前は都でなきゃ住むことができないのだろう。俺は山でなきゃ住んでいられないのだ」 「私はお前と一緒でなきゃ生きていられないのだよ。私の思いがお前には分らないのかねえ」 「でも俺は山でなき…

桜の森の満開の下(25/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (563字。目安の読了時間:2分) 救われた思いがしました。 今までその知覚まで失っていた山の早春の匂いが身にせまって強く冷めたく分るのでした。 男は家へ帰りました。 女は嬉しげに彼を迎えました。 「どこへ行っていたのさ。無理なこと…

【春の新機能祭り】LINE配信機能・自動読書ログ機能・HTMLメール配信機能の提供について 

いつもブンゴウメールをご利用いただきありがとうございます。 突然ですが、実はブンゴウメールはもうすぐリリース1周年を迎えます(めでたい!)。 1年前はこんなに多くの方に使ってもらえるとは思っていなかったので、本当にうれしい限りです。ありがとう…

ブンゴウメールの読書ログを自動で記録して可視化してくれる機能をリリースしました

https://pixe.la/v1/users/bungomail/graphs/bb0a59303-7388-4.html ブンゴウメールのたのしい新機能です。 毎日の読書ログがこんな感じ↑に自動で可視化できるようになりました。 メールを読んだ日はこのグラフが緑色で塗りつぶされます。 毎日読書チャレン…

公式配信をHTMLメールで受け取れるようになりました

ブンゴウメール公式配信(無料版の配信)は、現在シンプルなテキストメール形式で配信されています。 一方有料版「ブンゴウメールPRO」で配信しているメールは、よりリッチで見た目がきれいなHTMLメール形式で配信されています。 これまでは有料版ユーザーで…

桜の森の満開の下(24/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (616字。目安の読了時間:2分) 空の無限の明暗を走りつづけることは、女を殺すことによって、とめることができます。 そして、空は落ちてきます。 彼はホッとすることができます。 然し、彼の心臓には孔があいているのでした。 彼の胸から…

桜の森の満開の下(23/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (583字。目安の読了時間:2分) この部屋があのいつまでも涯のない無限の明暗のくりかえしの空の筈ですが、それはもう思いだすことができません。 そして女は鳥ではなしに、やっぱり美しいいつもの女でありました。 けれども彼は答えました…

桜の森の満開の下(22/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (613字。目安の読了時間:2分) その鳥は疲れません。 常に爽快に風をきり、スイスイと小気味よく無限に飛びつづけているのでした。 けれども彼はただの鳥でした。 枝から枝を飛び廻り、たまに谷を渉るぐらいがせいぜいで、枝にとまってうた…

桜の森の満開の下(21/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (609字。目安の読了時間:2分) きっと退屈を忘れるから」 「何を」 「何でも喋りたいことをさ」 「喋りたいことなんかあるものか」 男はいまいましがってアクビをしました。 都にも山がありました。 然し、山の上には寺があったり庵があっ…

桜の森の満開の下(20/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (625字。目安の読了時間:2分) 水干をきた跣足の家来はたいがいふるまい酒に顔を赤くして威張りちらして歩いて行きました。 彼はマヌケだのバカだのノロマだのと市でも路上でもお寺の庭でも怒鳴られました。 それでもうそれぐらいのことに…

桜の森の満開の下(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (644字。目安の読了時間:2分) 娘の首のために、一人の若い貴公子の首が必要でした。 貴公子の首も念入りにお化粧され、二人の若者の首は燃え狂うような恋の遊びにふけります。 すねたり、怒ったり、憎んだり、嘘をついたり、だましたり、…

桜の森の満開の下(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (622字。目安の読了時間:2分) 女はよろこんで机にのせ酒をふくませ頬ずりして舐めたりくすぐったりしましたが、じきあきました。 「もっと太った憎たらしい首よ」 女は命じました。 男は面倒になって五ツほどブラさげて来ました。 ヨボヨ…

桜の森の満開の下(17/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (621字。目安の読了時間:2分) 姫君の首は死のうとしますが大納言のささやきに負けて尼寺を逃げて山科の里へかくれて大納言の首のかこい者となって髪の毛を生やします。 姫君の首も大納言の首ももはや毛がぬけ肉がくさりウジ虫がわき骨がの…

桜の森の満開の下(16/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (637字。目安の読了時間:2分) ★ 男と女とビッコの女は都に住みはじめました。 男は夜毎に女の命じる邸宅へ忍び入りました。 着物や宝石や装身具も持ちだしましたが、それのみが女の心を充たす物ではありませんでした。 女の何より欲しがる…

桜の森の満開の下(15/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (592字。目安の読了時間:2分) 「一人でなくちゃ、だめなんだ」 女は苦笑しました。 男は苦笑というものを始めて見ました。 そんな意地の悪い笑いを彼は今まで知らなかったのでした。 そしてそれを彼は「意地の悪い」という風には判断せず…

桜の森の満開の下(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (573字。目安の読了時間:2分) 今年こそ、彼は決意していました。 桜の森の花ざかりのまんなかで、身動きもせずジッと坐っていてみせる。 彼は毎日ひそかに桜の森へでかけて蕾のふくらみをはかっていました。 あと三日、彼は出発を急ぐ女に…

桜の森の満開の下(13/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (584字。目安の読了時間:2分) どんな過去を思いだしても、裏切られ傷けられる不安がありません。 それに気附くと、彼は常に愉快で又誇りやかでした。 彼は女の美に対して自分の強さを対比しました。 そして強さの自覚の上で多少の苦手と見…

桜の森の満開の下(12/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (617字。目安の読了時間:2分) いやよ、そんな手は、と女は男を払いのけて叱ります。 男は子供のように手をひっこめて、てれながら、黒髪にツヤが立ち、結ばれ、そして顔があらわれ、一つの美が描かれ生まれてくることを見果てぬ夢に思うの…

桜の森の満開の下(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (607字。目安の読了時間:2分) 彼は納得させられたのです。 かくして一つの美が成りたち、その美に彼が満たされている、それは疑る余地がない、個としては意味をもたない不完全かつ不可解な断片が集まることによって一つの物を完成する、そ…

桜の森の満開の下(10/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (605字。目安の読了時間:2分) 見当もつかないのです。 この生活、この幸福に足りないものがあるという事実に就て思い当るものがない。 彼はただ女の怨じる風情の切なさに当惑し、それをどのように処置してよいか目当に就て何の事実も知ら…

桜の森の満開の下(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (603字。目安の読了時間:2分) そのとき、この女もつれて行こうか、彼はふと考えて、女の顔をチラと見ると、胸さわぎがして慌てて目をそらしました。 自分の肚が女に知れては大変だという気持が、なぜだか胸に焼け残りました。 ★ 女は大変…

桜の森の満開の下(8/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (637字。目安の読了時間:2分) どういう不安だか、なぜ、不安だか、何が、不安だか、彼には分らぬのです。 女が美しすぎて、彼の魂がそれに吸いよせられていたので、胸の不安の波立ちをさして気にせずにいられただけです。 なんだか、似て…

桜の森の満開の下(7/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (627字。目安の読了時間:2分) 首がまだコロコロととまらぬうちに、女のふっくらツヤのある透きとおる声は次の女を指して美しく響いていました。 「この女よ。今度は」 指さされた女は両手に顔をかくしてキャーという叫び声をはりあげまし…

桜の森の満開の下(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (628字。目安の読了時間:2分) 家の中から七人の女房が迎えに出てきましたが、山賊は石のようにこわばった身体をほぐして背中の女を下すだけで勢一杯でした。 七人の女房は今迄に見かけたこともない女の美しさに打たれましたが、女は七人の…

桜の森の満開の下(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (685字。目安の読了時間:2分) 彼は威張りかえって肩を張って、前の山、後の山、右の山、左の山、ぐるりと一廻転して女に見せて、 「これだけの山という山がみんな俺のものなんだぜ」 と言いましたが、女はそんなことにはてんで取りあいま…

【お知らせ】ブンゴウメールの姉妹サービス「ゾラサーチ」をリリースしました

いつもブンゴウメールをご利用いただきありがとうございます。 今日はブンゴウメールの姉妹サービスとして、青空文庫の作品を目安の読了時間で検索できるサービス「ゾラサーチ」をリリースしたのでお知らせします。 =============================== 【1】 …