2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧
ブンゴウメール (615字。目安の読了時間:2分) どうしたら一体、人目を忍んだり、人に嘘をついたり、別々の町に住んだり、久しく会わずにいなければならないような境涯から、抜け出すことができるだろうかということを語り合った。 どうしたらこの堪えきれ…
ブンゴウメール (751字。目安の読了時間:2分) そしてどの女にせよ、彼と結ばれて幸福だった女は一人もないのだった。 時の流れるままに、彼は近づきになり、契りをむすび、さて別れただけの話で、恋をしたことはただの一度もなかった。 ほかのものなら何…
ブンゴウメール (664字。目安の読了時間:2分) これでも二人の生活が破滅していないと言えるだろうか? 「さ、もうおやめ!」と彼は言った。 この二人の恋がまだそう急にはおしまいにならないことは、彼にははっきり見えていた。 何時という見当もつかない…
ブンゴウメール (762字。目安の読了時間:2分) で彼は己れを以て他人を測って、目に見えるものは信用せず、人には誰にも、あたかも夜のとばりに蔽われるように秘密のとばりに蔽われて、その人の本当の、最も興味ある生活が営まれているのだと常々考えてい…
ブンゴウメール (716字。目安の読了時間:2分) 娘も一緒に連れだっていたが、それはちょうど途中にある学校まで送ってやろうと思ったのだった。 大きなぼたん雪がさかんに降っていた。 「今朝の温度は三度なんだが、でもやっぱり雪が降るねえ」とグーロフ…
ブンゴウメール (683字。目安の読了時間:2分) 「ね、いいこと、ドミートリイ・ドミートリチ? わたしの方からモスクヴァへお目にかかりに行きますわ。わたしは一日だって仕合せだったことはなし、現在も不仕合せだし、これから先だって決して仕合せになり…
ブンゴウメール (671字。目安の読了時間:2分) と彼女は苦しそうに息をつきながら言った。 いまだに真っ蒼な、あっけにとられたような顔だった。 「ええ、ほんとに人をびっくりさせる方ですわ! わたし生きた心地もないくらい。何だって出掛けていらしたの…
ブンゴウメール (748字。目安の読了時間:2分) ―― 「ご機嫌よう」 彼女は彼の顔を見るとさっとばかり蒼ざめたが、やがてもう一ぺん、わが眼が信じられないといった風に、恐る恐る彼の方をふり仰ぎ、両手のうちにぎゅっと扇を柄付眼鏡もろとも握りしめた。 …
ブンゴウメール (764字。目安の読了時間:2分) 彼女は三列目に腰をおろしたが、グーロフはその姿を一目みた瞬間ぎゅっと心臓がしめつけられて、現在自分にとって世界じゅうにこれほど近しい、これほど貴い、これほど大切な人はないのだということを、はっ…
ブンゴウメール (693字。目安の読了時間:2分) 『なんの心算か知らんがえらくまあ寝ちまったものさ。 さてこのよる夜中に一体どうしようと言うんだい?』 まるで病院みたいな安物の灰色毛布をかけた寝床の上に坐り込んで、彼はさも口惜しげにわれとわが身…
ブンゴウメール (723字。目安の読了時間:2分) いやそれはいずれにせよ、家へあがり込んでどぎまぎさせるのは、あまり気の利いた話ではない。 かと言って手紙を持たせてやれば、良人の手にはいるかも知れず、そうなったら万事休すである。 最上の策は機会…
ブンゴウメール (713字。目安の読了時間:2分) 子どもたちにも厭々したし、銀行にもうんざりしたし、どこへも行きたくはなし、何の話もしたくなかった。 十二月の休暇になると彼は旅行を思い立って、妻にはある青年の就職の世話をしにペテルブルグへ行って…
ブンゴウメール (703字。目安の読了時間:2分) ―― 「ヂミートリイ、あんたは二枚目なんぞの柄じゃまるでなくってよ」 ある夜ふけのこと、遊び仲間の役人と連れだって医師クラブを出ながら、彼はとうとう我慢がならなくなって口を切った。 ―― 「実はねえ君…
いつもブンゴウメールをご利用いただきありがとうございます。 ブンゴウメール初のビジネス書コラボ『ビジネスモデル2.0図鑑』公式チャネル開設のお知らせです。 =============================== 『ビジネスモデル2.0図鑑』公式チャネルの配信を6月1日から…
ブンゴウメール (798字。目安の読了時間:2分) 彼はいつまでも部屋の中を行きつ戻りつしながら、思い出をたぐったり微笑んだりするのだったが、そのうち思い出はだんだん空想に変わって行き、過去が想像のなかで未来のことと混り合うようになった。 アンナ…
ブンゴウメール (841字。目安の読了時間:2分) …ァの人間だったので、その彼が上天気の凍てのぴりぴりする日にモスクヴァへ舞い戻って来て、毛皮の外套を着込み温かい手袋をはめて*ペトローフカ通りをひとわたりぶらついたり、土曜日の夕ぐれ鐘の音を耳に…
ブンゴウメール (787字。目安の読了時間:2分) …想よくもしてやったし、親身にいたわってやりもしたけれど、それにしてもあの女に対するこっちの態度や、ことばの調子や、可愛がりようの中にはやっぱり、まんまと幸運を手に入れた男の、それも相手より二倍…
ブンゴウメール (703字。目安の読了時間:2分) そら、こうして」 彼女は泣きこそしなかったが、まるで病人のように沈んだ様子で、顔をわななかせていた。 「あなたのことは忘れませんわ……いつまでも思い出しますわ」と彼女は言った。 「ご機嫌よう、お仕合…
ブンゴウメール (734字。目安の読了時間:2分) まったくの有閑三昧、誰かに見つかりはしまいかと四辺を見まわしながらびくびくものでする昼日中の接吻、炎暑、海の匂い、絶えず眼さきにちらちらしている遊惰でおしゃれな腹いっぱい満ち足りた連中、そうし…
ブンゴウメール (763字。目安の読了時間:2分) 明け方の光のなかでとても美しく見える若い女性と並んで腰をかけ、海や山や雲やひろびろとした大空やの、夢幻のようなたたずまいを眺めているうちに、いつか気持も安らかに恍惚となったグーロフは、こんなこ…
ブンゴウメール (806字。目安の読了時間:2分) 二人とも声を立てて笑うようになった。 やがて彼らが外へ出たとき、海岸通りには人影ひとつなく、町はその糸杉の木立ともどもひっそり死に果てたような様子だった。 が海は相かわらず潮騒の音を立てて、岸辺…
ブンゴウメール (694字。目安の読了時間:2分) わたしは好奇心で胸が燃えるようでしたの……こんな気持はあなたには分かっていただけますまいけれど、本当に私はもう自分で自分の治まりがつかなくなって、頭がどうかしてしまって、なんとしても抑えようがな…
ブンゴウメール (780字。目安の読了時間:2分) アンナ・セルゲーヴナの様子は見る眼もいじらしく、その身からは、しつけのいい純真な世慣れない女性の清らかさが息吹いていた。 蝋燭がたった一本テーブルのうえに燃えて、おぼろげに彼女の顔を照らしている…
ブンゴウメール (832字。目安の読了時間:2分) かと思えばまた――例えば彼の妻のように、その愛し方たるやさっぱり実意の伴わぬ、ごてごてと御託ばかりたっぷりな、変に気どった、ヒステリックなものであるくせに、さもさもこれは色恋などといった沙汰では…
いつもブンゴウメールをご利用ありがとうございます。 先日ご案内したブンゴウメールの「LINE配信機能」先行テスター募集に、たくさんのご応募ありがとうございました。 また先行テストに参加いただいたみなさん、ご協力本当にありがとうございました! とい…
ブンゴウメール (708字。目安の読了時間:2分) 綺羅びやかな群衆がそろそろ散りはじめ、もう人の顔の見分けがつかなくなり、風もすっかり凪いでしまったが、グーロフとアンナ・セルゲーヴナは、まだ誰か船から降りて来はしまいかと心待ち顔の人のように、…
ブンゴウメール (735字。目安の読了時間:2分) 『それにしても、あの女には何かこういじらしいところがあるわい』と彼はふと思って、そのまま眠りに落ちて行った。 二 知合いになって一週間たった。 祭日だった。 部屋のなかは蒸し暑いし、往来ではつむじ…
ブンゴウメール (774字。目安の読了時間:2分) グーロフは、自分がモスクヴァの者で、大学は文科を出たけれど現在銀行に勤めていることや、いつぞや民間のオペラで歌の練習生になったこともあるが中途でやめにしたこと、モスクヴァに家作が二軒あること………
ブンゴウメール (692字。目安の読了時間:2分) 「咬みは致しませんのよ」と彼女は言って、赧くなった。 「骨をやってもいいでしょうか?」そして彼女がうなずくのを見て、彼は愛想よく問いかけた、「ヤールタに見えてから大分におなりですか?」 「五日ほ…
ブンゴウメール (704字。目安の読了時間:2分) といった事情は、たび重なる経験のおかげで、それも全くもって苦い経験のおかげで、彼はとうの昔に知り抜いていた。 だのにまた胸そそられる女に出くわす段になると、せっかくの経験もどうやら記憶からずり落…