2018-01-01から1年間の記事一覧
(501字。目安の読了時間:2分) これは統計の明らかに示す所である。 文字に親しむようになってから、女を抱いても一向楽しゅうなくなったという訴えもあった。 もっとも、こう言出したのは、七十歳を越した老人であるから、これは文字のせいではないかも知…
(501字。目安の読了時間:2分) 乗物が発明されて、人間の脚が弱く醜くなった。 文字が普及して、人々の頭は、もはや、働かなくなったのである。 ナブ・アヘ・エリバは、ある書物狂の老人を知っている。 その老人は、博学なナブ・アヘ・エリバよりも更に博…
(501字。目安の読了時間:2分) 乗物が発明されて、人間の脚が弱く醜くなった。 文字が普及して、人々の頭は、もはや、働かなくなったのである。 ナブ・アヘ・エリバは、ある書物狂の老人を知っている。 その老人は、博学なナブ・アヘ・エリバよりも更に博…
(513字。目安の読了時間:2分) 彼は眼から鱗の落ちた思がした。 単なるバラバラの線に、一定の音と一定の意味とを有たせるものは、何か? ここまで思い到った時、老博士は躊躇なく、文字の霊の存在を認めた。 魂によって統べられない手・脚・頭・爪・腹等…
(552字。目安の読了時間:2分) それによれば、文字を覚えてから急に蝨(しらみ)を捕るのが下手になった者、眼に埃(ほこり)が余計はいるようになった者、今まで良く見えた空の鷲(わし)の姿が見えなくなった者、空の色が以前ほど碧(あお)くなくなった…
(501字。目安の読了時間:2分) これは統計の明らかに示す所である。 文字に親しむようになってから、女を抱いても一向楽しゅうなくなったという訴えもあった。 もっとも、こう言出したのは、七十歳を越した老人であるから、これは文字のせいではないかも知…
(552字。目安の読了時間:2分) それによれば、文字を覚えてから急に蝨(しらみ)を捕るのが下手になった者、眼に埃(ほこり)が余計はいるようになった者、今まで良く見えた空の鷲(わし)の姿が見えなくなった者、空の色が以前ほど碧(あお)くなくなった…
(533字。目安の読了時間:2分) 千に余るバビロンの俘囚はことごとく舌を抜いて殺され、その舌を集めたところ、小さな築山が出来たのは、誰知らぬ者のない事実である。 舌の無い死霊に、しゃべれる訳がない。 星占や羊肝卜で空しく探索した後、これはどうし…
(513字。目安の読了時間:2分) 彼は眼から鱗の落ちた思がした。 単なるバラバラの線に、一定の音と一定の意味とを有たせるものは、何か? ここまで思い到った時、老博士は躊躇なく、文字の霊の存在を認めた。 魂によって統べられない手・脚・頭・爪・腹等…
(532字。目安の読了時間:2分) 老博士の卓子(テーブル)(その脚には、本物の獅子の足が、爪さえそのままに使われている)の上には、毎日、累々たる瓦の山がうずたかく積まれた。 それら重量ある古知識の中から、彼は、文字の霊についての説を見出そうと…
(495字。目安の読了時間:1分) 文字の霊などというものが、一体、あるものか、どうか。 アッシリヤ人は無数の精霊を知っている。 夜、闇の中を跳梁するリル、その雌のリリツ、疫病をふり撒(ま)くナムタル、死者の霊エティンム、誘拐者ラバス等、数知れぬ…
(389字。目安の読了時間:1分) あんなに長いこと荒れ果てていた檻のなかにこの野獣が跳び廻っているのをながめることは、どんなに鈍感な人間にとってもはっきり感じられる気ばらしであった。 豹には何一つ不自由なものはなかった。 豹がうまいと思う食べも…
(472字。目安の読了時間:1分) 耳を格子にあてていた監督だけが、芸人のいうことがわかった。 「いいとも」と、監督はいって、指を額に当て、それによって断食芸人の状態を係員たちにほのめかした。 少し頭にきている、というしぐさだ。 「許してやるとも…
(414字。目安の読了時間:1分) 「それはな、おれが」と、断食芸人はいって、小さな頭を少しばかりもたげ、まるで接吻するように唇をとがらして、ひとことでももれてしまわないように監督のすぐ耳もとでささやいた。 「うまいと思う食べものを見つけること…
(412字。目安の読了時間:1分) というのは、断食芸人はあざむいたりせず、正直に働いていたのだが、世間のほうが彼をあざむいて彼の当然もらうべき報酬を奪ってしまったのだった。 だが、それからふたたび多くの日々が流れ過ぎて、それもついに終りになっ…
【1/30】(666字。目安の読了時間:2分) 桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。 なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲロを吐いて喧…
(445字。目安の読了時間:1分) やりとげた断食日数を示す数字を書いた小さな黒板は、最初のうちは念入りに毎日書きあらためられていたのだったが、もうずっと前からいつでも同じものになっていた。 というのは、最初の一週間が過ぎると係員自身がこのつま…
(426字。目安の読了時間:1分) とはいっても、小さな障害にすぎないのだ。 しかも、いよいよ小さくなっていく障害なのだ。 この今日において断食芸人に対する注目を集めようという風変りな趣向にも、人びとはもう慣れてしまい、この慣れによって芸人に関す…
(449字。目安の読了時間:1分) 動物小屋の臭気の発散、夜間における動物たちのざわめき、猛獣たちにやるため眼の前を運ばれていく生肉、餌をやるときのけものの叫び声、こうしたものが芸人をひどく傷つけ、たえず彼の心を押しつけるということは別としても…
(520字。目安の読了時間:2分) そして、それほどしょっちゅうあるわけではないが、運のいい場合には、父親が子供づれでやってきて、指で断食芸人をさし示し、これがどういうものなのかをくわしく説明し、昔のことを語り聞かせ、この断食芸人はこれと似ては…
(483字。目安の読了時間:1分) というのは、人びとが彼のところへやってくると、彼はたちまち、たえず変っていく二種類の人びとの叫び声やののしりの言葉のすさまじいさわぎに取り巻かれるのだった。 一方の人びとは――この連中のほうがやがて断食芸人には…
(523字。目安の読了時間:2分) 狭い通路にあとからあとからつめかける人びとが、いこうと思っている動物小屋への途中でなぜこうやって立ちどまるのかわからないまま、落ちついてもっと長くながめることを不可能にするのでなかったならば、おそらく人びとは…
(503字。目安の読了時間:2分) とはいえ、この主張は、断食芸人が熱中のあまり容易に忘れてしまっていた時代の風潮というものを考えあわせてみるならば、サーカスの専門家たちのあいだではただ薄笑いを招くだけではあった。 だが、根本においては断食芸人…
(399字。目安の読了時間:1分) むろん、それ相応にひかえ目な注文しかつけはしない。 それに、この特殊な場合にあっては、雇われたのは断食芸人その人ばかりではなく、彼の古くからの有名な名前もそうなのであり、実際、年をとっていくのに衰えないこの芸…
(408字。目安の読了時間:1分) いつかは断食の全盛時代がふたたびくるだろう、ということは確実だったが、今生きている人びとにとってはそんなことはなんのなぐさめにもならなかった。 そこで、断食芸人は何をやったらいいのだろうか。 何千という観客の歓…
(420字。目安の読了時間:1分) いずれにしろ、ある日のこと、ちやほやされていた断食芸人は自分が楽しみを求める群集から見捨てられたのを知った。 群集は断食芸人よりもほかの見世物のほうへ流れていくのだった。 興行主はもう一度彼をつれてヨーロッパ半…
(481字。目安の読了時間:1分) 真実をこうしてねじまげる興行主のやりかたは、断食芸人がよく知っているものだったが、いつでもあらためて彼の元気をそぎ、あんまり度がすぎるものと思われた。 断食をあまりに早くうち切ることの結果なのが、今ここでは原…
(459字。目安の読了時間:1分) 彼は集った観客の前で断食芸人のこうしたふるまいのわびをいって、満腹している人びとにはすぐにはわからないが、ただ断食によって生じる怒りっぽさというものだけによって断食芸人のこんなふるまいが無理からぬものと思って…
(470字。目安の読了時間:1分) 外見上ははなばなしく、世間からもてはやされながら、そうやって生きてきた。 だが、それにもかかわらずたいていはうち沈んだ気分のうちにいた。 そうした気分は、だれ一人としてそれをまじめに受け取ることを知らないために…
(378字。目安の読了時間:1分) つぎが食事であった。 興行主は断食芸人が失心したようにうとうとしているあいだにその口に少しばかり流しこんだ。 断食芸人のこんな状態から人びとの注意をそらそうとして、陽気なおしゃべりをしながら、それをやるのだった…