ブンゴウメール公式ブログ

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2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

【ブンゴウメール】夢十夜 (29/29)

(631字。目安の読了時間:2分) 庄太郎はやむをえずまた洋杖を振り上げた。豚はぐうと鳴いてまた真逆様に穴の底へ転げ込んだ。するとまた一匹あらわれた。この時庄太郎はふと気がついて、向うを見ると、遥(はるか)の青 草原の尽きる辺から幾万匹か数え切…

【ブンゴウメール】夢十夜 (28/29)

(678字。目安の読了時間:2分) 庄太郎は元来閑人の上に、すこぶる気作な男だから、ではお宅まで 持って参りましょうと云って、女といっしょに水菓子屋を出た。それぎり帰って来なかった。 いかな庄太郎でも、あんまり呑気過ぎる。只事じゃ無かろうと云って…

【ブンゴウメール】夢十夜 (27/29)

第十夜 庄太郎が女に攫(さら)われてから七日目の晩にふらりと帰って来 て、急に熱が出てどっと、床に就いていると云って健さんが知らせ に来た。 庄太郎は町内一の好男子で、至極善良な正直者である。ただ一つの道楽がある。パナマの帽子を被って、夕方に…

【ブンゴウメール】夢十夜 (26/29)

(697字。目安の読了時間:2分) 子供はよくこの鈴の音で眼を覚まして、四辺を見ると真暗だものだ から、急に背中で泣き出す事がある。その時母は口の内で何か祈りながら、背を振ってあやそうとする。すると旨く泣きやむ事もある。またますます烈しく泣き立…

【ブンゴウメール】夢十夜 (25/29)

(731字。目安の読了時間:2分) 夜になって、四隣が静まると、母は帯を締め直して、鮫鞘(さめざ や)の短刀を帯の間へ差して、子供を細帯で背中へ背負って、 そっと潜りから出て行く。母はいつでも草履を穿いていた。子供はこの草履の音を聞きながら母の背…

【ブンゴウメール】夢十夜 (24/29)

(652字。目安の読了時間:2分) 自分はしばらく立ってこの金魚売を眺めていた。けれども自分が眺めている間、金魚売はちっとも動かなかった。 第九夜 世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争が起りそうに見える。焼け出された裸馬が、夜昼となく、屋敷…

【ブンゴウメール】夢十夜 (23/29)

(666字。目安の読了時間:2分) 粟餅屋は子供の時に見たばかりだから、ちょっと様子が見たい。けれども粟餅屋はけっして鏡の中に出て来ない。ただ餅を搗く音だけする。 自分はあるたけの視力で鏡の角を覗(のぞ)き込むようにして見た 。すると帳場格子のう…

【ブンゴウメール】夢十夜 (22/29)

(703字。目安の読了時間:2分) それで御辞儀をして、どうも何とかですと云ったが、相手はどうし ても鏡の中へ出て来ない。 すると白い着物を着た大きな男が、自分の後ろへ来て、鋏(はさみ )と櫛(くし)を持って自分の頭を眺め出した。自分は薄い髭(ひ…

【ブンゴウメール】夢十夜 (21/29)

(643字。目安の読了時間:2分) 第八夜 床屋の敷居を跨(また)いだら、白い着物を着てかたまっていた三 四人が、一度にいらっしゃいと云った。 真中に立って見廻すと、四角な部屋である。窓が二方に開いて、残る二方に鏡が懸っている。鏡の数を勘定したら…

【ブンゴウメール】夢十夜 (20/29)

(722字。目安の読了時間:2分) するとその異人が金牛宮の頂にある七星の話をして聞かせた。そうして星も海もみんな神の作ったものだと云った。最後に自分に神を信仰するかと尋ねた。自分は空を見て黙っていた。 或時サローンに這入ったら派手な衣裳を着た…

【ブンゴウメール】夢十夜 (19/29)

(669字。目安の読了時間:2分) 「落ちて行く日を追かけるようだから」 船の男はからからと笑った。そうして向うの方へ行ってしまった。 「西へ行く日の、果は東か。それは本真か。東出る日の、御里は西 か。それも本真か。身は波の上。枕。流せ流せ」と囃…

【ブンゴウメール】夢十夜 (18/29)

(727字。目安の読了時間:2分) 道具箱から鑿(のみ)と金槌を持ち出して、裏へ出て見ると、せん だっての暴風で倒れた樫(かし)を、薪にするつもりで、木挽に挽 (ひ)かせた手頃な奴が、たくさん積んであった。 自分は一番大きいのを選んで、勢いよく彫…

【ブンゴウメール】夢十夜 (17/29)

(679字。目安の読了時間:2分) 天下の英雄はただ仁王と我れとあるのみと云う態度だ。天晴れだ」 と云って賞め出した。 自分はこの言葉を面白いと思った。それでちょっと若い男の方を見ると、若い男は、すかさず、 「あの鑿と槌の使い方を見たまえ。大自在…

【ブンゴウメール】夢十夜 (16/29)

(671字。目安の読了時間:2分) 辻待をして退屈だから立っているに相違ない。 「大きなもんだなあ」と云っている。 「人間を拵(こしら)えるよりもよっぽど骨が折れるだろう」とも 云っている。 そうかと思うと、「へえ仁王だね。今でも仁王を彫るのかね。…

【ブンゴウメール】夢十夜 (15/29)

(661字。目安の読了時間:2分) 女の髪は吹流しのように闇の中に尾を曳(ひ)いた。それでもまだ篝(かがり)のある所まで来られない。 すると真闇な道の傍で、たちまちこけこっこうという鶏の声がした 。女は身を空様に、両手に握った手綱をうんと控えた。…

【ブンゴウメール】夢十夜 (14/29)

(651字。目安の読了時間:2分) その頃でも恋はあった。自分は死ぬ前に一目思う女に逢(あ)いたいと云った。大将は夜が開けて鶏が鳴くまでなら待つと云った。鶏が鳴くまでに女をここへ呼ばなければならない。鶏が鳴いても女が来なければ、自分は逢わずに殺…

【ブンゴウメール】夢十夜 (13/29)

(667字。目安の読了時間:2分) そうして、みんな長い髯を生やしていた。革の帯を締めて、それへ棒のような剣を釣るしていた。弓は藤蔓の太いのをそのまま用いたように見えた。漆も塗ってなければ磨きもかけてない。極めて素樸なものであった。 敵の大将は…

【ブンゴウメール】夢十夜 (12/29)

(645字。目安の読了時間:2分) 「こうしておくと、箱の中で蛇になる。今に見せてやる。今に見せ てやる」と云いながら、爺さんが真直に歩き出した。柳の下を抜けて、細い路を真直に下りて行った。自分は蛇が見たいから、細い道をどこまでも追いて行った。…

【ブンゴウメール】夢十夜 (11/29)

(707字。目安の読了時間:2分)「真直かい」と神さんが聞いた時、ふうと吹いた息が、障子を通り越して柳の下を抜けて、河原の方へ真直に行った。 爺さんが表へ出た。自分も後から出た。爺さんの腰に小さい瓢箪(ひょうたん)がぶら下がっている。肩から四角…

【ブンゴウメール】夢十夜 (10/29)

(637字。目安の読了時間:2分) 台は黒光りに光っている。片隅には四角な膳を前に置いて爺(じい)さんが一人で酒を飲んで いる。肴(さかな)は煮しめらしい。 爺さんは酒の加減でなかなか赤くなっている。その上顔中つやつやして皺(しわ)と云うほどのも…

【ブンゴウメール】夢十夜 (9/29)

(634字。目安の読了時間:2分) 分っては大変だから、分らないうちに早く捨ててしまって、安心し なくってはならないように思える。自分はますます足を早めた。 雨はさっきから降っている。路はだんだん暗くなる。ほとんど夢中である。ただ背中に小さい小僧…

【ブンゴウメール】夢十夜 (8/29)

(649字。目安の読了時間:2分) 「重かあない」と答えると「今に重くなるよ」と云った。 自分は黙って森を目標にあるいて行った。田の中の路が不 規則にうねってなかなか思うように出られない。しばらくすると二 股になった。自分は股の根に立って、 ちょっ…

【ブンゴウメール】夢十夜 (7/29)

(697字。目安の読了時間:2分) と云って無はちっとも現前しない。ただ好加減に坐っていたようである。ところへ忽然隣座敷の時計がチーンと鳴り始めた。 はっと思った。右の手をすぐ短刀にかけた。時計が二つ目をチーンと打った。 第三夜 こんな夢を見た。 …

【ブンゴウメール】夢十夜 (6/29)

(754字。目安の読了時間:2分) こめかみが釣って痛い。眼は普通の倍も大きく開けてやった。 懸物が見える。行灯が見える。畳が見える。和尚の薬缶頭がありありと見える。鰐口を開いて嘲笑った声まで聞える。怪しからん坊主だ。どうしてもあの薬缶を首にし…

【ブンゴウメール】夢十夜 (5/29)

(767字。目安の読了時間:2分) ははあ怒ったなと云って笑った。口惜(くや)しければ悟った証拠を持って来いと云ってぷいと向( むこう)をむいた。怪(け)しからん。 隣の広間の床に据(す)えてある置時計が次の刻(とき)を打つま でには、きっと悟っ…

【ブンゴウメール】夢十夜 (4/29)

(687字。目安の読了時間:2分) 自分が百合から顔を離す拍子(ひょうし)に思わず、遠い空を見た ら、暁(あかつき)の星がたった一つ瞬(またた)いていた。「百年はもう来ていたんだな」とこの時始めて気がついた。 第二夜 こんな夢を見た。 和尚(おしょ…

【ブンゴウメール】夢十夜 (3/29)

(784字。目安の読了時間:2分) 抱(だ)き上(あ)げて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し 暖くなった。 自分は苔(こけ)の上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組を して、丸い墓石(はかいし)を眺めていた。そ…

【ブンゴウメール】夢十夜 (2/29)

(737字。目安の読了時間:2分) そうして天から落ちて来る星の破片(かけ)を墓標(はかじるし) に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢(あ )いに来ますから」 自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。 「日が出るでしょう。それから日…

【ブンゴウメール】夢十夜 (1/29)

(747字。目安の読了時間:2分)第一夜 こんな夢を見た。 腕組をして枕元に坐(すわ)っていると、仰向(あおむき)に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭(りんかく)の柔(やわ)らかな瓜実(うりざね)顔(がお)をそ…